わかりにくかった場面の解説を人に聞いて、二回目。うん、何だか楽しみ方がわかってきた気がする。カンパニーがすごいスピードで成長していた、というのもあると思います。そして三回目を観る頃には、各場面の音楽が日常勝手に脳内再生されるようになっていました。

　レ・ミゼなどがうっかり脳内再生されると、その場面を観たときの自分の感情（泣けたりとか）が思い出されるのですが、ヴァンパイアの場合は、感情ではなく、体がリズムを取って動くんですよね、勝手に。

　私は本来、ダンスは見るのも踊るのも、得意ではありません。とくに踊るほうは、体が硬いうえにリズム音痴（いわゆるドンクサイ）で、幼稚園のお遊戯から体育祭のダンスに至るまで、コンプレックスで大嫌いだったくらい。最近やっとSWAN LAKEやD☆Dで観る楽しみがわかってきたところ。その私が、つい脳内再生に合わせて体を動かしてしまう、実に不思議な現象です。

　公式ブログで時々言われていた「ヴァンパイア・ウィルス」って、案外コレなのかもしれませんね。感染したら最後、本人の意志や好みとは関係なく、勝手に体が踊りだしてしまう。それでまあ、体を動かしてしまえば、他人様からどう見えているかは棚に上げて、楽しいし気持ちいい。カーテンコールで、客席も皆立ち上がって歌い踊るのは、とにかく理屈抜きの楽しさ。舞台の上から好きな役者に煽られたりすると、夢中ですし。

　ＴＤＶの真価は、理屈なんかじゃ説明できない、もっと原始的・本能的な快楽をくすぐるところにあるのかな、と思います。あのダンスに見惚れ、あの歌に酔いしれて、物語のあのオチで、吹っ切れてカーテンコールで踊りまくる、あの熱気はとにかくその場で体験しなければわからない。劇場中に充満する快楽の魔力を持った空気、というのでしょうか。うまく言葉にできなくてもどかしいのですが、後半の舞台を観た方ならわかっていただけるはず。

　それに今回のＴＤＶは、キャストがものすごくゴージャスでした。これだけの人材をよく集められたなーと思うくらい。個々のシーンでは、役者さん・ダンサーさんたちの芸に魅入るばかり。

　というわけで、以下キャストごとにダラダラ書き。

○クコール

　まずは何と言ってもこの人、駒田一さん演じるクコール。この人がいなければそもそも観劇・リピートしませんでしたし、当初は「歌もセリフもダンスもない役」と聞いて凹んでいたのに、初日でその可愛らしさにメロメロ。

　見た目は、ハッキリ言ってグロ。背骨は曲がってるし、額から上は特殊メイク、大きなつけ耳、髪も産毛みたいな薄い茶色のカツラ、口には不揃いの歯と含み綿、汚れた包帯をグルグル巻いたようなボロ服から覗くのは、これまたゴツゴツしたイボだらけの手。もとのハンサムな面影が残っていると言えば、目力くらいでしょうか。

　本気で化けて〜♪でもカワイイ〜♪のがとっても不思議なところ。グロテスクなクコールが動き出すと、そりゃあもう不思議にチャーミングなのです。ひょこひょこ不気味なリズムの歩き方も、ウゴウゴ何を言っているんだかわからない片言も、時折見せるお茶目な仕草も、何故だかすっごく愛らしい。

　初日からもう「クコール可愛い、一家に一台必需品！」とそのグロ可愛さの虜になり、飛びついて抱きしめてやりたい衝動と戦う日々。（いや、通路席で間近に見ると、やっぱり見た目怖いんですけど）

「伯爵の従僕」のはずですが、むしろ「伯爵の可愛いペット」っぽく見えるような。伯爵のお尻に頭突き＆スリスリをする姿には、刷り込みヒヨコのように伯爵を好きなんだあと思います。その直後、伯爵の「昼間は何もできません」に合わせて、伯爵・教授・クコール三人揃って頭を回すのが可笑しくて超カワイイ。

　ペットっぽいとはいえ、家事もパーティーの支度も全部彼がやっていますし、教授たちを甲斐甲斐しくもてなす朝の仕草は、その健気さに胸がキュンとするほど。クコールがカーテンを開いて朝日が入ってくる場面は、伯爵たちが寝静まったこの城を彼一人で守っているのだと、軽い感動を覚えます。起きかけた教授の膝をトントン叩いて寝かしつけるのも、クコールの顔を見て驚くアルフに傷ついて「イヤー！」と顔を覆って走り去る姿もいじらしい。

　かと思うと、寝ている伯爵たちの横で大騒ぎするシャガールとマグダを強引に寝かしつけるところは、力強く男らしい。いつまでも騒いでいる二人の棺を、階段から投げ落としてガッツポーズするのがまた可愛い。

　それにどこか知的なところもあります。サラにブーツを届けるとき、決して彼女に手渡したり近づいたりせず、わざと森の入口に置いて、本人に取りに来させます。自分の姿を怖がるだろうという配慮と、彼女自身に選択の余地を残しているように見えて、実は巧妙に城へ一歩踏み出すことを誘っている、というのは穿ちすぎ？

　そんなに魅力的な彼だけに、ラストの狼たちとのシーンはもう、辛くて辛くて。いきなりネタバレになりますが、教授は学説の証明を、アルフはサラを、サラは自由を、伯爵は新しい仲間を増やしていく、実はハッピーエンド？なラストで、クコールだけは何もかもを失ってしまうんですよね。彼だけは、伯爵の言うすべての支配者＝「尽きない欲望」を持っていなかったからかもしれません。ただ拾ってくれた伯爵に日々恩返しして過ごせればいい、そんなささやかな幸せを大事にする人だったから、この物語ではああいう末路になったのかもしれません。

　再演があるなら駒田さんは、歌やセリフのあるシャガール役でとか、いっそ教授役で、と思うこともあるのですが、あのグロ可愛い駒田クコールにもう一度会いたいという気持ちも強くあり。一度その役を見てしまうと、観客のほうが離れられなくなります、この役者さんは。歌もダンスもなくても、すっかり私の中に「クコール」像が出来上がってしまって、おまけの脳内妄想なんかできちゃいましたよ＝＞クコールの1日（妄想編）※別窓で開きます

　それと、劇中ではないのですが、幕間の「お掃除劇場」が見事でした。一幕最後に紙吹雪の演出があるのですが、それがそのまま残っていると、二幕のダンスで足下が滑って危ないらしいんですね。で、お城のお掃除係？のクコールが幕間に出てくるわけですが、日替わりで必ずネタをやるのです。ＢＧＭに合わせてマイムをしたり、大道芸をしたり、小ネタを仕込んだり、ヘルベルトや他のキャストさんが乱入したり。

　私が生で見たのは、母さんが夜なべをして♪という歌に合わせ、母さんの手紙を読んで泣いてみたり（駒田さんのお母様の観劇日でした）、客席からロビーを練り歩いて残席表を配ったり、子守歌で寝ちゃったり、バルーンアートでネズミを作ったり。うれしいことには、途中から東宝さんがブログに動画をアップしてくれるようになりまして、観劇できない日でも様子だけはわかるように。舞台が熟成していない初期の頃は、コレがリピートの一因にはなったんじゃないかと思うくらい。

　とにかく日替わりで千秋楽まで78回のお掃除劇場、お疲れさまでした！

○クロロック伯爵

　さてタイトルロール、クコールの愛するご主人様・クロロック伯爵。山口祐一郎さんですが、他に見てきたどの役よりもハマり役だと思いました。人間を誘惑する危険な魅力にあふれ、そのくせ本人は永遠の孤独に飽きて、退屈しのぎで他人の欲望をいたずらに刺激するような吸血鬼。

　聴かせるソロやデュエットが何曲もあり、コウモリ羽根つきのクレーンでお風呂を覗きに来たりと笑いどころも満載。独特な動きは、マントひとつさばいても何だか微笑ましいし。（すみません、何度か吹き出しかけました）この耽美ながら「笑ってもいいよ」加減が、まさにピッタリだと思ったのです。

　好きなシーンは、クコールに頭突き＆スリスリされて「クコール……（苦笑）」ってとこでしょうか。伯爵は背が高いので、スリスリポイントがお尻になっちゃうところがちょっと変態ちっく（笑）

○ヘルベルト

　今回とにかくヤラレタ、反則！と思ったのはこの人、吉野圭吾さん演じる伯爵の息子・ヘルベルト。本当の息子なのかどうかは知りませんが、黙って並ぶと絵になる美形吸血鬼親子。そしてちょっとでも動いたら、可愛い可愛いオカマちゃん。

　登場シーンからクネッとした優美な動きで、ヴァンパイア退治に来た助手のアルフレートに一目惚れ。仕草や表情が乙女でいちいち可愛い。荷物を持ち上げるときに、アルフに向かって腰を突き出すのですが、下手の席から見るとほとんど腰が密着（笑）恥じらいながらも大胆です。

　見せ場は何と言っても、お風呂場でアルフレートを誘惑するシーン。衣装は黒いシースルーのフリルブラウスとＴバックの下着のみ、腿や尻には日替わりで薔薇や蜘蛛のタトゥ。＝＞あんまり似てない人形イメージ画像（笑）※別窓で人形サイトが開きます：4枚目の写真からBL注意

「待って。僕はきみとオ・シャ・ベ・リしたい」ねちっこく囁くセリフ回しが最高。乙女チックな仕草が最高。さり気なく魅せる華麗なダンスが最高。客席に背を向けて高さのある横っ飛び、風圧でブラウスがめくれて滞空時間いっぱい全開になる美尻。やっぱりダンサーさんのヒップラインは美しい！　観客は爆笑しながらもう釘付け。息子は父親よりも野獣度が高いらしく、すぐに声が低くしゃがれてケダモノになるところが、笑える上にセクシー。長い舌使いもエロエロ。つま先から舌の先、締まったお尻に至るまで、自分のルックスを完璧に計算に入れた素晴らしい魅せ方をしていました。

　襲われ役のアルフはＷキャストでしたが、二人で仲良くダンスをするシーンは、小柄な泉水さんがよく合い、愛想笑いしながら次第に恐怖にひきつり「ヒィヒィ」逃げ出すところは、浦井さんがお気に入り。結論、どっちも見られてラッキー！

　ところがこの息子、舞踏会のシーンでは一転してモノスゴイいい男になるんです。螺旋階段の上、赤いドレスのサラをエスコートする、黒マントの長身、クロロックの歌に合わせてマントをバサーッと翻す仕草が痺れるほど格好いい。

　出番はそれほど多くないけれど、舞台上に出ている間はずっと目で追ってしまう存在感でした。吉野さんはアンジョルラスやパーチック、どの役も好きなのですが、ヘルベルト役が個人的に最高です。よくぞ、この役をこの人がやってくれた！

○アブロンシウス教授

　さて、このヴァンパイアたちを退治？に来るのは、変わり者のアブロンシウス伯爵。コウモリの研究から派生してヴァンパイア研究に至ったようですが、他の研究者には全然相手にされていない。本人が真剣にやればやるほど、そのズレ具合が浮かび上がって、滑稽を醸し出すというキャラクター。さすがのベテラン市村正規さんが、実に愛らしくコミカルな教授を作り上げていました。

　歌、ダンス、コミカル芝居ともにハイレベルなのはもちろんのこと、とにかくセリフ数が多く記憶力の限界に挑む歌詞も何曲か。個人的には、レベッカに殴られた後クルクルバレエではけるところとか、霊廟で空中でジタバタする動きとか、随所で魅せるラブリーな動きがとにかく好きでした。

○アルフレート

　教授の頼りない助手、アルフレートはＷキャスト。コミカルな役作りの泉水洋平さんと、天然系の浦井健二さん。どちらも味わいが違い、見応えがありました。

　泉水さんは、きっちり隙なく演技プランがあるのでしょう、いつどんな瞬間に見ても「コミカルでお調子者のアルフ」の顔を存分に魅せてくれます。教授が投げる細かいネタも拾ってふくらませ、ハスキー系ボイスの歌声も聞き応え十分。ラストではガラッと雰囲気が変わりセクシー系の表情をするのも好き。

　浦井さんは「真面目で爽やかな好青年なのに実践はヘタレ」な魅力満載。霊廟での「できましぇぇん；」を始め、教授に叱られても、ヘルベルトに襲われても「ヒィヒィ」泣きべそになるのが、辛抱たまらん可愛さ。そのくせルックスや歌声は甘〜い王子様。サラも「可愛い人」と歌っていますが、母性本能を直球で刺激するアルフでしたね。

○サラ

　お風呂大好きヒロイン・サラも、大塚ちひろさんと劔持たまきさんのＷ。

　大塚さんは「エロ可愛い」元気いっぱいの村娘。自分の美貌に自信があり、豊かな肢体をアルフにもヴァンパイアにも魅せつけて、親の束縛を逃れ自由で刺激的な新しい世界に飛び出していきたい、という若さあふれる役作りでした。

　いっぽう劔持さんのサラは「不思議ちゃん」。人形や妖精のように整って美しいルックスに、無意識・無防備に男の前でエクスタシーの表情をしちゃったりする、白痴系の危うい色香を感じさせました。自分の意志で自由を求めるというより、ただ本能的に気持ちいい方向に流されていくというか。そういう色っぽさで、お風呂シーンが大変魅力的。同性ながら、彼女のお風呂シーンはウットリお楽しみの一つでした。

　１８にもなってパパにお尻ペンペンされる場面でも、大塚さんはパパを納得させるための嘘泣き、劔持さんは本気で泣いているという解釈に見えました。個人的には、伯爵の解釈とあいまって、劔持さんのほうが好みですかね。

　という流れで、サラの項目ですが、伯爵についての私なりの解釈を。

　伯爵がヴァンパイアになった経緯については、劇中では詳しく語られていません。伯爵の独白から想像するに「娘の温かい頬に触れ、そのとき悲劇は起きた」それまで普通に人間として生きていたのに、恋をしていざセックスをしようと思ったときに、突然ヴァンパイアとして目覚め、吸血してしまったのかな、と。本当は普通に人間の愛の営みをしたいのに、血を吸い、生身の人間としては命を奪うことしかできない、血を求める欲望に抗えない、自分自身の存在は何なのだろうと苦悩している、もしかしたら教授のような理性的な人間が、欲望の支配の鎖を断ち切ってくれることを期待し、けれどできるわけがないと嘲笑っている、それが私の伯爵のイメージです。

　当然、伯爵は童貞というか不能（スミマセン！）、ゆえにセックスを知っている女（たとえばマグダみたいな）は苦手で、何も知らない処女を吸血の欲望に目覚めさせるのが好き。処女は現実を知らない分、逆に想像力が強く、割と何でも受け入れますからね。処女になら、吸血をセックスをはるかに越える快感として位置づけることができるでしょう。（そんで、吸血に目覚めさせた後はあっさり無関心かもしれない……もっとギラギラしたタイプの伯爵だったら、別の感じ方をしていたかもしれませんが。ただ、そう淡泊だと、ラストのアカンベーはちょっと違うんですよね〜）

　というマニアックな解釈のもとに、何も知らない無垢な処女を吸血して犯すイメージの、劔持サラの役作りが好みなのでした。このへんはまあ、物語のモチーフとしてヴァンパイアをどう見るかによるのですが。

　ちなみに息子のヘルベルトは、ヴァンパイアになる前は女と遊びまくりで、吸血という新たな快楽を知ってからは、受攻どっちもイケる、最近は可愛い男の子がマイブームという大変ポジティブ（笑）なイメージです。

○シャガール、レベッカ、マグダ

　最初はヴァンパイアに怯える人間、怯えるだけで教授たちのように戦うこともせず、やがて欲望に流されてヴァンパイアとなる、庶民代表の三人。

　正直なところ、シャガール役の弱さが、三人セットで存在感を薄くしていたように感じました。最初はサラの身を案じ、モラルやルールに閉じこめるソロを歌った父親が、さっさとヴァンパイアになって「人間なら皆してることさ。血でなけりゃ金か女を吸う」と開き直る。しかも、人間からヴァンパイアに変わっても、シャガールの本質は何も変わっていない。欲もありエゴもあり情もあり保守的でもある人間が、吸うか吸われるかの立場を変えただけ。このへんの心の動きが、ヴァンパイア側の快楽主義と、教授側の理性主義とを双方併せ持つ観客の共感を誘うと思うのですが……。

　今回は橋渡し役的な中間不在で、極端な二択（教授か伯爵か）から選ばざるをえなかった気がします。観客は揺れた末、ヴァンパイア側に傾けば、モラルやルールを忘れて欲望のままに踊り狂うという、現実には滅多にないエクスタシーを味わうことができるんですけどね。初日の私はモラルやルールに縛られたままだったので、ラストがわからなかったんだろうな、と今になって思います。

　それとヴァンパイアになった後、あれほど大切にしていたサラのことを（きれいごとだけじゃなく、閉じこめておきたいというエゴも含めて）、シャガールが気にかける演出が一つもないのが不思議でした。物語の筋には絡むのに、テーマには実質ノータッチという微妙な存在感のシャガールでした。

　個人的には、随所でいぶし銀の巧さを利かせた阿知波さんのレベッカはとても好きです。観客に何を魅せればいいのか、きっちり把握している役者さんなんだと思います。情にもろい、泣きの演技がうまい。前方席のときのカーテンコールではハイタッチもしてもらったし（どうも本来の標的は私の後ろだったようですが／笑）、これからいろいろな舞台で観たい役者さんの一人になりました。

　宮本さんのマグダは、サバサバした性格と、色っぽさのバランスが◎。とくに教授の足をお湯で洗うシーン、何であんなにエロいんでしょうね〜。

○ダンサーさんたち

　ＴＤＶは、ダンスを抜きには語れません。とにかくダンス、ダンス、ダンス！　ダンスがないと予測されていたクコールさえ、マグダを棺に押し込むときにちょっとダンスしていましたし（アレ、可愛くて好きですvv）。

　何と言っても好きなのは、サラ・ダンサーの加賀谷さん。舞台の上では、顔の造形より姿勢や仕草、立ち居振る舞いが美しさの条件ですが、そういう点でピカイチの美人さんでした。すうっと背筋を伸ばした佇まいだけで、ほんのり開きかけたのつぼみのような年頃の娘らしさを感じさせました。実年齢とは逆かもしれませんが、大塚さんより劔持さん、劔持さんより加賀谷さんの順に、若く清純に見えたくらい。サラを踊るときの白のロマンティック系ネグリジェ姿も好みでしたしね。

　踊るときはどちらかというと抑えた表情なのに、びっくりするようなアクロバット、妄想舞踏会のシーンでも悪夢のシーンでも、次から次へとリフトされまくるのがツボでした。男女の絡みであるリフトで色っぽいのは当然でしょうが、ＴＤＶではまさに次から次へとヴァンパイアたちに抱かれ、輪姦されているように見えました。そのくせ、ボンヤリ夢うつつの表情で踊り続ける、むしろ清楚なルックスが逆に扇情的。（って、実は処女陵辱スキーなのか、私？）

　クロロック・ダンサーの新上さんは、動きがシャープでダイナミック。舞台の上から直に胸に迫ってくるような見応えがありました。ただし墓場のソロは、コンテンポラリー系というんでしょうか、ピクピクした動きで、私のようなダンス素人にはちょっと難解だったかも。

　アルフ・ダンサーの東山さんも欠かせません。「悪夢」の場面、初日はポカンとして「シャウト歌唱と武○士ダンス……こういうのを好きな人もいるんだろうな」と他人事に思っていたのですが、三回目くらいから、自分がその好きな人になっていました。何というか、あのシーンはどこがどういい、というのではなくて、気付くとすっかりハマっている、実にＴＤＶらしい味わいの場面です。

　ベッドや天蓋からニョキニョキ生えてくるヴァンパイアたち、サラを誘惑し、輪姦し、狂乱の限りを尽くす中に、サラを助けようと飛び込むアルフ。東山さんは大変華奢で、白ブラウスとぴったり半ズボンという衣装に、体のラインがクッキリ。ヴァンパイアに飛びかかり、サラを抱いて逃げたりもするも、体格のいい男ヴァンパイアのみならず、女ヴァンパイアの誘惑にさえ簡単に絡め取られてしまう。

　そしてついには、クロロック・ダンサーに血を吸われる。この吸血シーンの東山さんの表情が、ものすごく色っぽい！　と言っても特別な表情をするわけでもなく、むしろ抑え目。抑え目ながら、首をのけぞり、吸われている箇所をぼんやり見つめる表情は、どうにもならないあきらめと、遠ざかる苦痛と、痺れるように甘い恍惚とを、等分に漂わせて。（勇午さんが麻酔打たれて標本拷問されたときに、自分の手のひらに釘が打ち込まれているのを見つめるあのコマの表情です、とマニアにしかわからないたとえ／笑）

　刃物で手を切ってそれなりの出血をしたことがあるのですが、あれはあまり痛みを感じないんですよね。ドクドク熱い感覚はあるけれど、恐怖とパニックで意識と五感は切り離され、夢のようにすーっと気が遠くなっていく。どうしよう、真っ赤な血が全然止まらない、このまま死ぬのかな……と（いやそんな大袈裟な怪我じゃまったくなかったんですが、血液関係にすごーく弱いもので）。東山さんの表情は、まさにそういう感覚を思い起こさせて、すーっと昇天しそうになるのでした。

　で、その後は床でピクピク断末魔のアルフ、悲しむサラ、それでも続くヴァンパイアたちの狂乱の宴。やがて夜は明け、白いベッドに姿を消していく黒い悪夢たち（天蓋に消える男ヴァンパイアと、ベッドに消える女ヴァンパイアが刹那手をつないでから、離れる振りがちょっとツボ）、カーテンの隙間から差し込む朝日が照らす、アルフの握りしめた十字架。……ああ、もう一度あのダンスを見たいです。

　カーテンコールでは、元からのヴァンパイアたちも、かつては人間だった役も、欲望のままに踊り狂う。しまいには、観客たちも立って踊り出す。あの爽快感は、他の舞台や、ただ踊るだけでは得られない。とにかくＴＤＶのダンスは他に代え難いのです、いろんな意味で。

　今ある願いは、とにかく再演を観たい。感染してしまったヴァンパイア・ウィルスは、私の中で大きく大きく成長し、疼いて仕方がありません。東宝さん、ヴァンパイア・ウィルスをこれほどまでに蔓延させた責任を取って、どうか再演してください！

　心のシャウト：このまま終わっちゃヴァンパイヤ〜ン！（←すみません、ウィルスが脳に達した模様）