自分の中で何がそんなに大騒ぎだったかと申し上げますと、駒田はじめさんが演じた「ヴィト」というキャラクターでございます。

　もともと駒田はじめさんのファンでもあり、コソ泥で売春夫といういかにもな設定がくっついていたのですが、いざ舞台を目の当たりにしてしまうと、何もかもを取っ払って「ヴィト」という稀有な存在に惚れ込んでしまったのでした。勿論、駒田さんが演じたからこその存在感だったとは思うのですが、舞台の上では彼は舌の先からお尻のてっぺんまで（何ちゅー表現じゃ）「ヴィト」でしたので、「ヴィト」に惚れたとしか私には申し上げられません。

　開演後、薄暗い客席をタルそうに横切り、舞台上の小さな窓から舞台に忍び込んだコソ泥が、ヴィトでした。ニットの顔を隠す帽子に、薄汚れたダウンコート、モスグリーンのトレーナーにワークパンツ。航空バッグを肩にかけ、ぼさぼさの茶髪、日によっては無精ひげもクマ髭状に、基本的に小汚い雰囲気ですね。（失礼。それでも初演のときよりは小奇麗だそうで）社会からあぶれて、コソ泥やら売春やらやっているような彼なので、身なりがいいわけはないのですが。

　そして口を開くと、大変に口汚い。（笑）この作品は全編、ブラックユーモアというかシモネタ系で、うきょー、耐えられるのかワタシは？と思ったりした瞬間もありました。（いまさら清らかぶるな？）

　ところが物語が進むにつれ、小ずるく機転の利いた軽妙なしゃべりと、泣き顔からワルモノ顔、小悪魔的な笑顔へとクルクルよく動く表情に目が吸い寄せられていきます。芝居のほとんどの間、ヴィトは流し台に縛られて身動きもできずにいるのですが、眼差し、眉、口元等の顔のパーツと、縛られた足首やお尻（このへんの詳細は裏日記にて）だけで、ヴィトという存在をひしひしと伝えてきます。社会の底辺をずるく生きながら、自分自身でも「どぶみたいな世界に生きている」と自覚し、それでも人を愛して、陽気に生きようとしている、ヴィト。

　彼の淋しい彼の身の上……できちゃった結婚の女房と別れたのでなかなか会えずにいる娘のメロディや、死んでしまった友達でパトロンのベンのことを語る頃には、淡々と話しながらも潤む大きな瞳に、もうヴィトの虜です。

　普段やっていることは汚いことばかりなのですが、彼の魂は素直で汚れがない。コソ泥に入ったのも「娘にプレゼントを買うため」で、結構間抜けで何度か捕まっている経験もあるようで、捕まえた相手に「助けてくれよう〜」無防備に懇願する意外な甘さ。人のことを好きになれば、表現がストレートで、正面からプロポーズし、「おれが働いて、料理も作ってやる」ってな尽くすタイプ。

　……なんかね、この辺が私にとってはＪＵＮＥなんですよ。「男か女かなんて関係な」くて「自分のためにすることには何の意味もない」うえに「おれは一人で生きてきたことなんかねえや」と断言する。愛し愛されることを、何よりも、もうちょっと自分のことを考えろよってくらい大切にしている人。

　「何となく行き詰まっちゃっている人の心に他人がヒョッコリ忍びこむ」というモチーフは、拙作ハルミシリーズと共通するところがあるのですが、結末は私が絶対に書かないような、ＪＵＮＥでした。そのまま居場所を見つけてしまうんですもの、ヴィトったら。

　「狂気の沙汰」の一夜が明けてしまえば、ささやかな癒しを胸に主人公はもとの日常へ帰っていくものと、リアリストなファンタジー書き（矛盾した表現）の私は思っていたわけですが、そんな予想を大きく裏切り、しつこく力ずくで主人公の心を開いてしまったヴィトには、完全降伏でした。

　ああー、いいなあ。すがるような瞳をキラキラさせたヴィトちゃんが、真面目に働いて食わせてくれて、料理自慢で、「あんたはタイプライターの上に指を躍らせてるだけでいいんだ」なんてプロポーズ（いや、単なる同居の申し出ですが）してくれたら、私なら即効ＯＫなのにぃー。とはしがない無料ＷＥＢ作家の汚れた魂のつぶやき。

２．駒田はじめの魅力

　すっかり、時間の許す限り出待ち入り待ち（楽屋口で役者さんの出入りを待つこと。舞台の外までの追っかけは基本的にご迷惑ですが、駒田さんは出入りの待ちについてファンサービスの一環として、時間の許す範囲でお相手してくださいます）もクセになりつつあるこの頃。相変わらず話しかけたりはぎこちない、ファンレターだけ渡すと無言で見つめてしまう不気味なファンですが、毎日やっているうちに少〜しだけ慣れました。

　そんな私がついに駒田さんと「ファンです」以外の会話をっ！

　お芝居の中で「マヨネーズetc.で調味したキャットフードをそれと知らずに食わされる」（まあ鬼畜）な場面があるのですが、ツナ缶にしては赤すぎる……というのがファンの疑念でした。小道具のボウルが見つからず、皿で代用＝客席から丸見えなので本当に全部食べなくてはならないハプニングのあった回の出待ちで、他のファンの方が味についての質問を。「あれはマヨネーズじゃなくてヨーグルト」と仰るので「ええっ、キャットフードにヨーグルトですかっ！？」と叫んでしまった大ボケの私に「ちっがうよ！ツナとコーンビーフ」と突っ込んでくださった駒田さん。って、あれ。ちっとも会話じゃないジャン(^^;

　ともかくも、そんなものを食べて「すんげえうめーよ！」と言わなければならない役者さんって大変だぁと思った次第。

　また１／２〜３は、寒いのに紺の着流しにマフラー姿で現れて、出待ち入り待ちのファンを楽しませてくれました。コスプレ好きの私は（いや、そういう意図ではなかったと思うんですけど；）、とうとうカメラを持参してしまいましたよ。着物姿、むちゃくちゃ可愛かったんですもの〜。（年上の方に何ちゅう言い草；すみません）コンパクトな肩のラインに弱いんですね。しかし腕が悪いのでまともな写真は撮れていないんだろうな……。

　それにしても舞台後は相当お疲れでしょうに、笑顔で写真を撮らせてくださったり、握手に応じてくださったり、毎回頭が下がります。千秋楽に至っては、一人一人に「ありがとうございます」とご自分から握手をしてくださって……舞台を降りてもやはりこの方には完全降伏なのでした。