東宝ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」 今回は業務繁忙期だったため、2回だけの観劇でした。（いや、2回観れば普通は充分なのかもしれませんが、公演中の親睦会に参加できなかったことが、個人的に相当なダメージで。メソ）博多座初日に1回、日生劇場で千秋楽2日前に1回。まさに今期の始まりと終わりの時期だけを観たことになります。 博多座初日は、初参加のキャストがかなり緊張していたようで、やや薄味に感じました。というわけで感想は、記憶にもまだ新しい日生劇場2/26分をメインに語りたいと思います。（いや、語るほどの分量にならないはずですが） １．モーテル まずは何と言っても駒田モーテル！ 駒田さんを先に語ってしまうと、あと語ることが残らない気もするミーハーな役者ファンですが（苦笑）やっぱり何と言ってもこの人。とくに2/26は連続三週間勤務の後の観劇でしたので、感動ひとしお。 とにかくもう、声の響きが甘い。ツァイテルに頷く「ウン」がたまらない。仕草がやさしい。表情にとろける。腹黒系の役を演じることが多い駒田さんのファンとしては、貴重な甘味処の役です。 レ・ミゼラブルのテナルディエあたりと比較するとまったくの別人ですが、どちらもたしかに演じているのは駒田さん。素の人柄がどちらに近いかは、ファンからは推し量るほかないのですが、両極端に見えるどちらの要素も、たしかに駒田さんの中に入っているのだと思います。様々な役で異なる顔を見る度に、本当に懐の深い、ある意味底知れない役者さんだなあと痛感します。 さて、駒田モーテル、前回公演とは役作りが微妙に違ったように感じました。相手役のツァイテルが、香寿たつきさんから、匠ひびきさんに替わったせいでしょうか。と言っても、たった2回きりの素人観劇で感じたレベルですので、まったくの見当違いかもしれないのですが。 前回は「やさしい。やさしすぎて気が弱い。けれど芯はしっかりして、仕事にも女性にも誠実な男」といったふうに感じました。ツァイテル役の香寿さんが、両親や幼い妹たちに細やかに心配りするしっとり長女だったので、まさに似合いの理想的なカップルでした。 比べて今回は、モーテルはたしかに「やさしい」「誠実」な要素も持ち合わせているのですが、プラスしてどこかヲタクのにおいを感じました。 職業的興味の限度を超えたミシーンへの執着、対人関係の基本はオドオドして挙動不審、ところがある瞬間でプッツーンとキレるキレキャラ。目が悪いのか周囲が見えていないのか、しょっちゅう柱にぶつかったり、パーチックの肩にぶつかってヘコヘコしたり、パパにチューされそうになったりと、コミカルな動きも増えていました。 相方の匠さんのツァイテルが、マイペースに我が道を行く長女に感じられましたので、ある意味ヲタクモーテルとは「はかったようにぴったんこ」なカップルでしたね。そうして二人の結婚後、すっかり落ち着いてよき夫・よき父へと成長しているのも印象的でした。 それと、直接セリフで絡まない場面でも、随所でパパと目と目で会話する演技が増えていた気がします。言葉にできない辛さ、弱音をぐっとこらえて、無言のまま悲しみを呑み込んだ視線だけを合わせる。この舞台のテーマの一つである、民族差別に耐えて生きるユダヤの誇りを強く感じる場面でした。 聴きどころは、やっぱり「奇跡」のソロ。やさしくて可愛くて、感謝と喜びに満ちあふれて。聴いているだけでふわーっと幸せのこみ上げてくる歌声です。そのくせ、スローになるところでは大人の色気も響かせる。つくづく、駒田さんファンにとってオアシスな役です、モーテル！ 次回も続投だとうれしいなあ。 ２．ホーデル さてその他の役をさらっと。（さらっとかい！） 今回楽しみにしていたのが、剣持たまきさんのホーデルでした。レ・ミゼラブルのコゼット役で美しいソプラノを聴かせた彼女、他の役で観るのは私は初めてでした。 ホーデルというと、初めて見た堀内敬子さんの情感豊かな歌声がどうしても印象に強いのですが、剣持さんのホーデルは明るくさっぱりとした、彼女ならではのホーデルでした。対人関係はどちらかというと理知的で淡々としていながら、ふとした隙に芯に秘めた情熱と、強さと弱さを同時に覗かせる。 駅のシーンでは、父テヴィエを気丈に説得しながら、いざ背を向けられると、すがってしまいそうになる弱さに涙を誘われました。ホーデルは、どこか自分の運命に酔う殉教者のような女という思いこみがあったのですが、こういうホーデルもありかと目から鱗でしたね。 また、相手役のパーチックと並ぶと姿形がしっくり馴染んで、実に絵になるカップルでした。ウンウン。 ３．パーチック ということで、パーチック。前々回公演以来、一回休んで復活の吉野圭吾さんですが、この人はとにかく華がある。すらりと見栄えよく、動きやセリフも情熱的で「正義を信じて革命を起こす学生」が本当にハマる人ですね。歌唱力も安定して、すっかり安心して見られるようになりました。 印象的なのは、結婚式でのダンスの場面でしょうか。颯爽と柵を乗り越え、頑なにしきたりを守る村に新風を吹き込む。直後のロシア兵の狼藉シーンでも、果敢に立ち向かい負傷する姿が格好良かったです。 ４．好きな場面 さて本当にさらっとキャスト関係を済ませましたが（笑）、後はお芝居全体の好きな場面について。これが、うーん、今回は実は全体に薄く軽くなっちゃっていたなあと感じるのです。 たとえば、前回まで大好きだった三姉妹の床掃除ダンス。若い娘たちの結婚への憧れと不安、姉妹の仲睦まじさ、何よりも三姉妹それぞれの個性あふれる可愛らしさを堪能していたのですが、今回はさらっと段取り的に流れてしまって、物足りなく感じました。どこがどう足りないとは言えないのですが、萌え♪な仕上がりではなかったのが残念です。三女はせめて萌え♪を頑張ってくれればよかったのですが……。 それと安息日。おごそかながら迫力あるコーラスに、神への敬虔な祈りや、ユダヤのしきたりの重さを感じていたものですが、これもさらっと過ぎてしまいました。前回はママ役の夏木マリさんの歌唱力に圧倒されましたので、そのへんかな？とも思います。後の「愛しているかい？」も夏木さんの怖いママ→ほろりと見せる可愛らしさのギャップにクラクラ来ただけに、今回は薄口。 そしてフルマ・セーラの悪夢。衣装が変更になって、真っ赤なドレスになっていましたが、コレがどうにも肩車の継ぎ目が目立つ。初めて見たときにはまったく継ぎ目が気にならず、本当にそういう背の高い「悪霊」に見えてゾクゾクしたのですが、今回はコミカル優先の演出だったように思います。 あとは、三女がパパにフョートカの話をしようとする場面。これが致命的に弱かったです。長女、次女の結婚をなんだかんだ許してきたテヴィエが、どうしても許せない三女の恋。それは民族の違い、宗教の違い、彼らが誇りとするユダヤの尊厳に関わる部分。ここがあっさり流れてしまうと、後のシーンの重みがすべて飛んでしまうんだ、と今回初めて痛感しました。前回の笹本チャヴァの祈るような「パパ」という切ない呼びかけがリアルに体に残っているだけに、今回のヒステリックに叫ぶ演出は耳障りでした。あれじゃあまるで現代っ子のワガママ家出で、一週間もしたら「ママ、洗濯物たまっちゃった。テヘ」と帰ってきそう……。 それと最後の最後、アナテフカを離れるテヴィエとフィドラーとのアイ・コンタクト。以前は「生まれ育った故郷を追われるのに（それまでアナテフカのしきたりの中で生きてきたユダヤの生き方の象徴である）自分を連れて行くのか？」とためらうフィドラーに「何やっている、お前も来い」テヴィエの心の声が聞こえるように感じていたのですが……今回ははっきりとはわかりませんでした。ううん、解釈不足？ と、足りない部分ばかりを挙げてみましたが、じゃあ作品全体はどうなの？と訊かれれば、満足ではありました。何でしょうね、うまく言えないのですが。市村テヴィエがとにかく余裕たっぷりになっていたせいもあるでしょうか。結婚式のシーンなどは、挙式から余興のダンス、ロシア兵の乱入に至るまで迫力・見応えがあり、いいもの観た！という満足感はトータルして今回が一番だったかもしれません。 メロウを強調するとともすると冗長になりがちな場面を、ぽんぽんと軽快にテンポよく見せて、全体を一気に魅せる、というのが今回の演出だったのかもしれませんね。 ウン、とにかくまた駒田モーテルが見たいので、再演に期待！ |