東宝ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」 まだ公演は続いていますが、ネタバレしてます。ご注意を！ 私にとって「屋根の上のヴァイオリン弾き」と言えば、「長い」と「フィドラー」の二言でした。とにかく長くて、回数見るには体力いるな、と思ったのが前回公演。 けれど駒田さんの演じるフィドラーの役は、歌もセリフもないのに何故か大好きで、当時同規模の舞台で演じていた「ラ・マンチャの男」の床屋役とどっちが好きと聞かれれば、フィドラーと答えるくらい好きでした。今となっては、長さにめげずもっと何回も見ておけばよかったなと思いますが。 そして今回の感想は「テンポよくスピーディーになった」と「モーテル」モーテルモーテルモーテル！ 駒田さんのモーテル、とにかくもう最高でした。 直前に見ていた「レ・ミゼラブル」の悪いオヤジ・テナルディエとは打って変わって、純真でやさしく、ちょっと気弱な青年の役。前回公演でモーテルの印象はそれほど強くなく（屋根の上ばかり見ていたもので；）いったいどんなモーテルになるんだ〜と思っていたのですが、登場からいきなりカワイイ！ 例のごとく見た目の話から入りますが、ユダヤ人独特の丸い帽子に丸メガネ、口元とアゴには髭、茶系のチェックのシャツの上から礼拝用のフリンジのついたチョッキを着て、茶色のベストに、首からはメジャーをぶら下げて。文字で書くとあんまり可愛くない？チラシの写真だけならオジサンに分類されそうな衣装ですが、村人と手をつないで「しきたり〜♪」軽快なステップで出てきた途端、動きが表情が雰囲気がメチャクチャカワイイ！ 単調な踊りに見えて、しきたりのダンス意外なほど滞空時間が長い。足を素早く交差させたり、細かく左右に戻ったりで、ヒラヒラ軽やか。そしてバックでの硬い表情での動きから、息子集団のソロになると笑顔になり、「花嫁がキレイならいいな♪」頬に手を当て、もう片手で肘を支え、首を傾げて若者らしく無邪気な歌詞。 次の登場は、幼なじみで恋人のツァイテルを尋ねてテヴィエの家へ。ところが「あとで！」仲人のイェンテに邪魔にされ、母親のゴールデに追い出され、「じゃあまた後で来ます」素直に退場。空気のようにふわりと軽い存在感が、不思議にやさしさだけを残していく。ちなみに家を出入りするときに、戸口に取り付けた小箱に手で触れて、その手にキスして神への愛を表すユダヤ人の風習があるらしいのですが、駒田モーテルはこの仕草が妙に可愛い。キスする一瞬、神の前に素直で無防備な表情になる気がして。 ツァイテルとのやりとりは、幼い頃から尻に敷かれている模様。でもツァイテルはしっかり者ながら、長女特有のおっとり感とやさしさにあふれていて、モーテルとはお似合いのカップル。「私をお嫁にほしいって、パパに話して！」と配膳中のナイフを手にツァイテルが迫り「わかった、話してみよう」と観念するやりとりがまた可愛い。 個人的には「ウン。（イェンテに）会ったよ」の一言が好きでとても好きです。ツァイテルとの最初のやり取りで、テナルディエのダミ声を想像しているとあまりの甘さに腰が抜けそうになる響き。でも本来ならイェンテは、恋人のツァイテルに無理やり変なムコを連れてくる恋のお邪魔虫。お邪魔虫の登場にツァイテルは気が気じゃないようで、かなりやきもきしているわけですが、一方のモーテルは穏やかでやさしい声。このへんは彼の生き方、ですかね。周囲や環境がどうあろうと気にせず、欲しいものは時間をかけてもちゃんと自分の力で手に入れる、芯の強さと、頑固なくらいの彼自身のペースを感じました。 テヴィエとの絡みでは、娘たちと間違えられてテヴィエにキスされそうになって「こいつは違う！」と邪険に放り投げられてみたり、猪突猛進でテヴィエの背中にぶつかったりしながら、結婚話を切り出せず「安息日おめでとう」で終わってしまうところが可愛い。あらゆる場面で、前回公演より義父子の絆が濃くなっている気がします。 おかしくて思わずクスッ。でも真面目で誠実なのはわかるので、頑張ってねモーテル、とこぶし握って応援せずにいられないほのぼの感が、駒田モーテルの持ち味。 そんなモーテルが「初めて男らしい口を利い」て、パパに結婚のお願いを言えた場面は心の中で拍手喝采。続く「奇跡の中の奇跡」のソロは、もう聴いているだけでたまらない幸せ。歌声から喜びが、感謝が、ツァイテルへの愛が、あふれて劇場全体を包みこむ感じ。前回はあまり記憶がなかったのですが、いい歌なんですよ、とっても。あのモーテルのやさしい歌声を思い出しながら口ずさむだけで幸せな気分になれます。「たいした奇跡！」とセリフ風に歌うところと、「君をこの手に与えたもうた」と艶っぽく歌い上げるところとの声の変化にゾクゾク。 歌いながら、ツァイテルと二人でクルクル回って、ラストでは抱っこして、一見バカップル。ところが退場する直前、ふとツァイテルを振り返って見せる、モーテルのとろけそうにやさしい微笑みにドッキリ。あ、バカップルなんて軽いものじゃなくて、本当に愛しているんだ、互いに何よりも大事に思っていて、目に映るだけで幸せなんだ、と。やさしくツァイテルの肩を抱いて、坂道を上る。気弱なだけじゃない。気弱で、でも強くて、何よりも誠実で愛があって。幸せになるんだよー、二人。 ツァイテルと結婚した後のモーテルは、今度はミシーンに夢中。働き者の仕立て屋の彼の仕事を完璧にしてくれる、素晴らしい機械。仕事に関してちょっとオタクっぽい感じがさらに好み。「僕の新しい中古のミシン」という表現がまた何とも可愛い。 ラストシーンでは、モーテル夫婦の荷物にミシーンがないので訝しく思っていましたが、旅費のため売ってしまった設定なのだとか。モーテルにとっては数年越しの夢のミシーン、一生懸命働いてようやく手に入れたミシーンだったのに。何とも言えず切ない気持ちになります。でも彼は、一生懸命働いてまたミシーンを手に入れる決意をしたんだろうなあ。 と、勢いよくモーテルのことばかり語りましたが。 お芝居全体としては、日に日によくなるといった印象でした。東京プレビュー初日よりも、東京千秋楽。東京千秋楽よりも名古屋公演。この先、どこまでよくなっていくのかわからないお芝居です。うー、地方まで追っかけたくなる。 で、他の役について。まずはモーテルの相手役のツァイテル＠香寿たつきさん。先ほど少し触れましたが、本当にモーテルとお似合いで、可愛い。しっかりおっとりで、なおかつ可愛い。 香寿さんは元宝塚の男役で年齢も高めとのことですが、言われなければ全然わかりません。むしろ姉妹の中ではいちばん女性的で、結婚を前に美しくなる妙齢の娘といった風情でした。そして仕草がとにかくきれい。指の先まで神経が通っていてきれい。 モーテルファンとしては羨望の対象になりそうなところ、彼女は本当に好感の持てる愛らしさで、モーテルとセットで詰め合わせにしたいくらいで、ちっとも妬きませんでした。本当にお似合い、そこにセットで置いておくだけで甘々幸福オーラを発してくれるんですもの♪ で、テヴィエ＠市村正親さん。←主役を他の役扱いするのもどうかと思いますが。 前回の西田テヴィエの印象がかなり強烈だったので、東京では正直薄く感じました。短縮のためアドリブをほとんど削られているし、ルックスのスマートなテヴィエだし、歌もコブシ回ってないし、まあこんなものかなーと。でも名古屋を観て、ああこれが市村テヴィエかと輪郭が見えた感じ。 とくに好きだったのは、ゴールデとの掛け合いですね。「愛しているかい？」は前回舞台ではラブラブで幸せ♪だったのですが、今回は何故だか泣きそうに。愛に気付く幸せと、愛を再認識する感動というのか、一種の神聖な驚きを感じました。 気付けば今回のテヴィエ一家は、夫婦の対で楽しんでます。熟年のテヴィエ夫婦と、ほのぼのと明るい長女夫婦、ドラマチックな次女夫婦、寡黙な決意の三女夫婦。それぞれに見せ場があって、ペアの役者で魅せる。そういう演出だったのでしょうか。 テヴィエの妻・ゴールデ＠夏木マリさんは、これまた最高！ 豪快な肝っ玉母さんなのに、ふと見せる可愛さは娘たちの誰よりも可憐。テヴィエの夢の話を怖がってネグリジェでクルクル回る仕草とか、テヴィエの「愛しているかい？」に「バカったれ！」と罵る表情、チャヴァの家出を嘆いて泣き崩れる姿、どれもが瞼にクッキリ焼きついています。うわあ、この役こんなに可愛い役だったんだ、とびっくりしました。安息日や結婚式では、母親の威厳と慈愛に満ちて美しかったですし。今回の好き好き大好きに決定！ 次女夫婦は、前回舞台の印象が強すぎて薄かったです。舞台全体のバランスを崩すくらいドラマチックにやってもらうほうが好みかも。私も次女なので、感じるところの多い役なんですよね。それで余計に期待してしまう。 逆に三女夫婦は、前回舞台でこんなに見せ場があったっけ？と首を捻る今回の印象深さでした。「チャヴァよ」で、ゴールデとチャヴァが二人で出てくるだけで涙がじわーっ！三姉妹が並んで互いのリボンを結んだり、本を読んだりすると、その愛らしさにじわーっ！ チャヴァの愛らしさと、市村さんの歌声が相まって、大変印象的な場面でした。 そういえば私、三姉妹の場面が大変に好きです。「素敵な人を見つけてね」は前回舞台から大好きなナンバー。若い娘たちが恋や夢を語る図ってそれだけで幸せですねえ。（オヤジ発言）家セット撤収で影絵になった瞬間、両手を振り上げながらキャッキャ走っていく姿がまた可愛いんだなあ〜。 その他のお気に入りは、酒場でのロシア人たちとのダンス。回を追うごとに迫力が増していって面白かったー。おばあちゃんとフルマセーラのシーンは大爆笑。一度味わうとクセになります。司教様はミシーンのためのお祈りがとくに好き。フィドラーは、ラストのテヴィエと目と目で会話する場面が、私の解釈と違って感じられて何だか物足りず。どうしても自分の中にイメージを作り上げてしまいますね。 総評として、成長過程の舞台であるな、とは感じています。決して未成熟な状態、というのではありません。新しいカンパニーですし、まだまだ伸びるなという確実な予感。地方公演の楽……平日なのに思わず出張とぶつけて行きたくなっているバカがここにいるんですが。 |