東宝ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」 はい、例のごとくのミーハー追っかけ日記です（笑）お目当ては言わずもがな、駒田はじめさん（はあと）……が、今回はちょっと真面目に語っちゃうかもしれません。物語そのものに、私の命題と通じる部分を感じましたもので。勿論、激しくネタバレですので、どうぞご注意くださいましね〜。 １．んではまずは衣装から（笑） だから何だってここから入るんだっつのって言われましても、まあ、今回は衣装抜きには語れませんでしょう。駒田さん演じるフィドラーは、歌も無いセリフも無い、舞台の象徴的な役なのですが、白塗りのお顔に衣装は赤でした。
幕が開くなりスポットの中にいると思えば、上演中はアレいつのまにそこにいたの？……そこにいるのだかいないのだか、存在感そのものが神出鬼没のフィドラー。その彼を、観客が見失わずにいられるのは、この姿のおかげですかね。群衆に紛れる場面でも、そこだけ色彩が違う。ファンとしては非常にありがたかったです（笑） いやまあ、純粋に可愛い衣装でうれしゅうございました。さらに何と言ってもこの衣装、燕尾気味なのですわ。ヴァイオリンを弾きながら、高速ターンをする場面が何度かあって……ひらりひらりなびく燕尾がマニア心にジャストミート。嗚呼素敵、高速ターンに燕の尾。（わけわからん） ２．ターンついでにダンスについて。この舞台のダンスはどれも見応えがあって楽しかったです。 まずテヴィエの娘達の結婚を夢見る歌とダンス。少女らしい歌を歌いながら、モップを使って、これがとっても可愛い！貧しくしきたりに縛られた生活ながらも、暗さのかけらもない、若い娘達。まるでおやじのように眩しく見守ってしまいました。 それからロシア風ダンスのいろいろ。手をつないで高速回転とか、下半身を床に沈めた腰の辛そうなダンスとか、見慣れない感じで面白かったですねえ。ビンを頭に載せたまま踊ったり、お見事。 あと個人的に大喜びだったのは、お告げの夢の、背の低いおばあちゃん幽霊と背の高ーいフルマセーラの悪霊。小さいおばあちゃんがリフトされてぴょーんと飛び上がるのは不気味ながらも可愛らしく、そこへ背の高い（肩車の上からドレスを着ているようでしたな）悪霊が乱入してきて爪を光らせてテヴィエを追いまわすのは、ゾーッとするほど大迫力かつコミカルで、見惚れてしまいました。見惚れた分、テヴィエパパを放って真っ先に逃げ出した？フィドラーの姿を見逃しがちになっちゃったほどでしたね。 ３．さて歌と声。ファンにとって駒田さんの何が魅力って、あの表情千変万化なお声なんですけれども、フィドラーという役には歌もセリフも無い！ これ、実にものすごいことだと思います。チョイ役だからセリフが無いんじゃなくて、あのよくしゃべりよく歌う他の役の間にあって、セリフ無しで舞台の上に存在していなければならない、というか存在していたりしていなかったり点滅しなければならない、そういう役なんですね。 私のような演劇素人が、古典的名作について語るのは見苦しい限りですが、感じたままに。ただそこに佇むだけで微妙な存在感を伝える、そのへんの機微についてはもう、さすがに駒田さんでなけりゃあ！と思いました。 いったいどうしたらあの存在感を文章にできるんでしょうかね。視覚的に目立つ、んではなくて、まるで舞台の上ではなくて、直接私の胸にいつのまにか入り込んで立っているような。ハルミの目指すのはまさにこういう境地です、ハイ。 ４．さて、物語について。重ねて言いますが、素人が古典的名作を語るのは大変に見苦しいです。以下は非常に個人的な視点の、観劇２回きりの浅ーい感想ですので、いやな予感がする方はどうぞお読みにならないように。 舞台は、皇帝がいた頃のロシア、小さなアナテフカ村。しきたりに縛られ、困窮に喘ぎ愚痴を言いながらも、明るく暮らしているユダヤ人のテヴィエ一家。若者達は古いしきたりを破り、社会を変革しようとし、当時の人々のアイデンティティである民族や宗教をも超えて生きようとしますが、私は実は、一見流されるままのテヴィエの生き方に共感しました。 昔からのしきたりに従い、その日の恵みに感謝し、辛いときには「神様ぁ」に愚痴をこぼしつつ、どんなときも明るく朗らかに暮らしている。しかしガチガチに旧態依然かというとそうでもなく、古い意見にも新しい言葉にも「あんたの言うことはもっともだ」頷き、可愛い娘の言うことならば怖い（笑）妻をも説得する。どちらかというと流されるがまま。一見、自分の考えが無いようなテヴィエパパですが、実は学問を大切にし、他人の話に耳を傾ける人。だからこそ、新しい意見をも、自分の意志で受け入れられるわけで。 流れのままに、それがどんなに辛くても明るく朗らかに生きること、実はそれがテヴィエパパの哲学なのではないでしょうか。しきたりに背くことも社会を変えるために立ち上がることも、彼には出来たかもしれないけれども、彼はあえて、流される生き方を選んだ。彼は神が与えた自分の役割を、そういうものだと理解していた。 そんなぼんやりとした思いつきが腑に落ちたのは、ラストシーンです。 従順なテヴィエに、次々と襲い掛かる試練。長女、次女、三女の必ずしもすべて幸せとは言い切れない結婚、皇帝の理不尽な仕打ち、ついには生まれ育った村を追放される。 アナテフカ村を去るラストシーンで、荷車の陰から不意に現れたのはフィドラー。いつものようにヴァイオリンを奏でつつ、だが次第に列からはぐれ、ついには足を止め、腰を落としてじっとテヴィエパパと目を見交わす。 それまでは、舞台の上にいても、群衆に紛れることの多かったフィドラー。大抵のことには興味がなさそうに、まるでぜんまいの切れた人形のようにだらんと力を抜いて立っていて。（そう、いつでもキラキラと瞳の眩しい駒田さんが、フィドラーの動かない表情のときには、まるで塗りつぶしたようなぼんやりした瞳になるのが驚きでした。目の中まではメイクできないでしょうに……あれはいったいどういう仕掛け？）興味を引くようなことがあるときだけ、ひょいと反応し、にこにことヴァイオリンを弾き始める。もしくはテヴィエの心の中で、テヴィエと語り、或いはテヴィエ自身の心を演じ。 周囲の役はフィドラーが見えていないようで、どこか見えているような節もあり、あいつはいったい何なんだ？はずっと観客である私の胸に引っかかっていたことでした。 それが、ひたりと、今まさに彼の生活の全てであったアナテフカを追われていくテヴィエパパと、見詰め合い……何を語るのだろう？別れを告げるのだろうか？間違いなくテヴィエのアイデンティティであったはずのアナテフカに、フィドラーは残るのだろうか？ この場面、フィドラーは観客に背を向けて、腰を落としています。でも私は何故かこの場面が、印象的に心に残りました。セリフも歌も無いフィドラーの、いちばん強烈に胸に刻みつけられた姿です。回り舞台の演出とあいまって、時の流れがゆっくりと遅くなり、ついには止まったように見えました。 じっと動かないフィドラーの目線の先で、少しの沈黙の後、テヴィエが応えます。何やってる、早くついて来い。これも、セリフではありません。テヴィエの眼差しと身振りだけ。はじかれたように立ち上がり、うれしそうにちょこちょこ追いかけるフィドラー。 しきたりに時代に押し流され、いつもいつも虐げられるテヴィエが一緒に生きてきたのは、屋根の上で足を踏み外さないように用心深くこらえながら、それでもヴァイオリンを弾き続けていたフィドラー。屋根から降りようともせず、何故屋根の上にいるかを問うのでもなく、ただただヴァイオリンを弾くことだけがすべてのフィドラーを、故郷アナテフカを離れるときも連れて行くのだと思ったら、何もかもがつながりました。 それならば、私も同じ。私の中にもたしかにフィドラーがいる。流されるしか出来ないけれども、流されながらヴァイオリンを弾くことこそが……私は決してヴァイオリン弾きではありませんが、それに代わるものを持っているつもりで……神の与えた私の役割。 どういうわけだか後半のシーンでは、フィドラーの衣装の擦り切れや穴がひどく気になりました。度重なる試練に、ぼろぼろにうちひしがれたテヴィエとフィドラー。それでもテヴィエは笑顔を振り撒き、フィドラーはヴァイオリンを弾く。私の中にもまた、ぼろぼろになってもヴァイオリンを弾くことしか知らないフィドラーはたしかにいて。 何やさっぱりわからない独白になってまいりましたが（苦笑）、ここしばらく、マイナーで反応の少ないＷＥＢで文章を書くということについて、煮詰まっていた影響でしょうね。ともかくもそれで、どんな名作でも自分とつながらなければ無意味だよーと言い張る私と、楽しいけれど朝の連続ドラマ小説風（笑）別の世界にも見えていた舞台が重なったのでした。テヴィエがフィドラーを連れて、日は沈みまた昇る人生を歩み行くとき、私もまた私の中のフィドラーに誇りを持てる。私の中のフィドラーにぽんと肩を叩かれた気分でした。 ……あーもー、本当にワカラン。真面目に読んで理解不能に頭ショートされた方、すみません＜(_ _)＞舞台の外でも、やっぱりフィドラーに「肩ぽん」的なお言葉をいただいてしまったもので（いや、本当にそういう意味だったかどうかは別物なのですが、勝手にそのように感じまして）相当にぶっ壊れておりますのは事実です、へい。このへんで打ち止めにしておきましょう。 さて、今回これだけワケわからんことを並べ立てておいて、次に観たときにはいったい何を感じるのか。これだけいろいろなテーマの詰まった作品、また全然違う世界が見えるのではないか、とても楽しみです。 （それにつけてもああ、次に観られるのはいつかしら……） |
（イメージとしては……屋根の上のひょうたん持ちのラクガキでも。ズボンはもっとピッタリ系……っつーか、プログラムも見ずにタブレットで直描くなっちゅーの。→）