それでも、無理をしてでも観に行って本当によかった！　この素晴らしい舞台を観られたこと、この舞台に立つ駒田さんを観られたことを、感謝します。

　以下、ネタバレ注意で。

　舞台は、ベトナム。ベトナム戦争時にイギリスへ亡命していた女・フェイが、生き別れの姉・ティエンを探しに、二十年ぶりに故郷へ帰って来るところから始まります。

　決して豊かとは言えない、ベトナムの最下層の暮らし。かつての解放軍の仲間たちは、夢を失い、フェイの帰郷を歓迎せず、心の傷をかきむしられて苦しむばかり。姉を探すフェイの辛い旅路は、一幕終わりで絶望的な事実に行き当たります。

　正直、あまりのテーマの重さに「えー、これからまた職場に戻って仕事なのに、精神的に大丈夫か私」と思ってしまった一幕終わり。それでも幕間にパンフレットを買い、ネタバレを読んでちょっと安心。

　そして二幕。とにかく役者さんたちの迫真の演技に引き込まれ、熱さに胸を詰まらせて、ラストシーンでは涙が止まりませんでした。決してハッピーエンドではないのですが、心が洗われるような、魂が浄化されるような、そんな涙。ひとの命を、ただ生きていてくれるだけで、素直に愛おしいと感じる。ＴＳのお芝居で、一番好きな作品になりました。

　以下、今回とくに胸打たれた役者三人について列挙。

　ティエン役の土居さんは、とにかくずば抜けて美しいソプラノで、聞くだけで寿命が延びるようでした。鈴を転がすような、豊かで清らかな響き。ティエンの強さ、やさしさ、ひたむきさ、ひとを愛する気持ちが、声だけで伝わってくる。遠目でしたが、仕草や表情も聖母のように清らかでした。

　一幕の姉妹別れのシーンのデュエットでは、その凛とした美しさに涙がにじみました。もしも物語がつまらなくても（失礼な杞憂）、この歌を聴けただけで満足だと思えたほどです。歌と芝居を両立できる（歌からダイレクトに感情が伝わる）数少ないタイプの役者さんで、またどこかの舞台で拝見できたらと思います。

　それから、ハイン役の吉野さん。彼がクローズアップされる場面はそれほど多くはないのですが、とにかくトアンとやりあうシーンが圧巻でした。気迫がもの凄い。普通の人なら、一生に一度もこのテンションにはならないんじゃないかというほどの迫力を、毎公演やっているのかと思うと驚きます。

　その熱さから、ティエンの娘を育てて必死に過ごした八年間が目に浮かぶようで、その娘を失った後の絶望を思うと、胸が苦しくなりました。

　声質に癖のある方ですが、それがかえってＴＳの熱さに合う。「ＡＫＵＲＯ」も素晴らしかったですが、本当にＴＳにぴったりな役者さんだと思います。

　そして、ビンとその父親・ビックの二役を演じた駒田さん。まあ、私はこの方を観に行ったわけですが（笑）

　相変わらずこの人は巧い！　歌と芝居が渾然一体となって、ビンビン観客に伝わってくる。話す言葉が音程のついた歌であること、仕草や表情が演出の決まった芝居であることをまったく感じさせず、舞台上にビンやビックとしてリアルに存在する。

　大きな野望や強さはないけれど、故郷を愛し、父親を愛し、仲間を愛し、ティエンを愛していた純朴な青年。それが戦いの中で、弱り、すり切れ、壊れていく様は、本当に辛かったです。ティエンの銃殺シーンは、胸がつぶれる思いでした。

　そして愛するティエンを失い、戦うことそのものの意義を見失い、ボロボロになったビンが、故郷に帰ってぶつかったであろう、父親・ビックの厳しさを演じたのも駒田さんでした。

　かつてフランス軍と戦い、片手足を失った、勇敢な軍人・ビック。大きな手柄を立てて帰ると信じていた息子が、軍を脱走して、精神的に壊れて帰郷する。厳しく叱って、再び戦場に向かわせようとするも、ビンの取った行動は正反対で、ビックもまた壊れてしまう。

　強靱な何かを持っているわけではない、どこにでもいそうな、故郷を愛し、人を愛する等身大の若者ビン。そしてビックもまた、息子を愛するがゆえに、強くあれと厳しく振る舞う、どこにでもいそうな父親。どこにでもいるごく普通の親子が、戦争の中で取り返しのつかない結末に至る様は、あまりにもリアルで無惨でした。

　この二つの役を、一人の役者が演じるという演出には、また深い意味を感じます。駒田さんならではの、ビンとビック双方の役解釈と表現が、対となって、この親子を観客の胸に深く刻みつけたと思います。

　ほとんどブログまんまですが、今回の感想はこのへんで。切実に再演希望の作品です、今度は私が通える日程で！　噂では、シアテレで放送するかも？とのこと。とりあえずはそちらを楽しみにしたいと思います☆（でも私シアテレ見られないんだった……凹）