砂の戦士たち 2003年11月11日〜11月19日 サンシャイン劇場 当然のことながら、ネタバレバレ注意です！ まだ新作の舞台ですし、たぶん普通の舞台よりもネタバレは気になると思うので……今回見逃して、再演に期待する方は、どうかお読みにならないようにお願いします＜(_ _)＞ とにかく！激しい舞台でした。踊る踊る、踊るというか走る、跳ぶ、戦う、宙を舞う！ 直前に観ていた舞台が歌中心のレ・ミゼラブルでしたので、舞台空間の使い方のギャップにオープニングからクラクラっと来ました。縦横無尽ところ狭しと役者が動き回るので、キャラメルボックスで見慣れているはずのサンシャイン劇場が、まるで小劇場のように小さく見えるのは驚きでした。 ちょっとした移動も、普通に歩いて移動なんてしない。ひょいと跳んだり、くるんとでんぐり返ったり。駒田さんも、トンボを切ったりはしませんでしたが、勿論動いています。側転をしたり、人の腕を支点にぐるんと後ろ宙返りをしたり。ダンスというよりも、そういうアクロバットが、殺陣や動きの一つとして溶け込んでいるんですね。 さて、激しい動きの中、ようやく駒田さんの姿を視界に捕らえれば、髪を切って黒髪に。レ・ミゼラブルのときよりもさらに痩せた印象。うわ、ハッキリ言ってめっちゃ格好いい！ 2000年秋のディナー・ショウ以来の私好みのルックスでした。それだけでもう、血沸き肉踊りそうな。←変な例え で、次の瞬間にはナイフをつきつけられ「これで文句はないな！ オレに着いて来い、ボルタ・セカ！」地に屈服させられるボルタ。何ですかこれ、私向けのサービスですか。←違います。大恐慌後の貧困にあえぐブラジルのストリート・キッズたちのリーダー交代の場面です。 駒田さんが劇中劇で演じたボルタ・セカは、山賊に憧れる気象の激しい少年。己が力だけで生きる山賊の強さの美学があり、ブチ切れるとナイフや銃を持ち出す危うい存在でした。駒田さんに狂気のナイフって、何て私好みな取り合わせ。 一方では十代の少年の、多感でストレートな感情と、仲間とじゃれあう稚気も持っている。彼が強がれば強がるほど、幼さゆえの弱さや、愛情に対する渇きが見えてくる。……おっと、久々に少年愛の美学を語りそうになってきました。「少年」というモチーフに、私が感じて止まない数々のものが、まさにそこにありましたので。 ところが、シーンがふっと途切れて、いきなり現代日本の舞台になる。「砂の戦士たち」を演じているのは、現代日本の小さな劇団。そういう設定でした。 劇団パートで駒田さんが演じたのは、黒藤という年長の劇団員の役。この役は、ボルタとは随分違っていました。まず何より、オヤジ。赤いジャージで、人の名前は間違えるし、ストレッチはサボるし、文句言いでわかりやすい女好き。そのくせ、皆がもめだすとまあまあとなだめに入るアニキ肌の人。 一つの舞台で、まるで違う二役を見ているようでもあり、けれど劇中劇でボルタを演じるのは紛れもなく黒藤であり。このへんの切り替えの絶妙な加減が、駒田さんでした。 小ネタとしては、黒藤の名前間違えネタが大変好きでした。ただ間違えるだけでなく、相手役のツッコミが対応していてまた面白い。守島を呼び間違えて「武者小路実篤！」「それ、ありえないでしょ！」とか「ジュゲムジュゲム……」「長いでしょ！ そんなの憶えるくらいなら守島を憶えなさいよ」「うん、長くて憶えられなかったんだ。途中で止めてくれてありがと」とか、漫才としてオチまでついていて秀逸でしたね。守島役の川本さんの「……でしょ！」語尾やわらかくもキッパリした返しが個人的にツボだった模様。 で、その守島＝川本昭彦さんが劇中劇パートで演じてたピルリトが、とっても好きな役でした。 今回、劇中劇パートでは同年代の少年がゾロゾロ出てくるだけあって、私の好みの性格の少年もいたわけですが、一番：ピルリト、二番：ボアでしたね。 ピルリトは、いつも倉庫の隅で神に祈りをささげている少年。物静かでやさしくて、いつも穏やかに笑っている、いかにも私の好きそうな役どころ。それが、アルミロの発病に際しては取り乱し、興奮し、絶叫して「祈ろうって言ってるんだよぉー！」……錯乱して言うことが「祈ろう」なんですね。それが彼のやさしさであり、それこそが強さでもある。 錯乱するとナイフを手にするボルタとはちょうど正反対なんだなあと感じました。「自分の力しか信じない」と言いながら、弱い自分を強くするために武器を持つボルタ。自分にない力を求めたりせず、ただ「神様は心を満たしてくれる」ことを知っているピルリト。 その後、仲間の死に際して祈りを捧げるピルリトの姿は、清らかで強く神々しいものでした。ジョゼ神父に導かれて神の道に入った彼は、この世のあらゆる不幸と悲しみを知りながら、それでも幸せになったのだと思います。 ボアは、坂元健児さんの演じた役。陽気で、歌が大好きで、天然痘にかかるも、それを克服して後に人気者の歌手になる勇気ある男。 彼が自分の意志で隔離所に行く場面はもう泣けて泣けて。本来ならば悲壮な場面なのに、彼は泣かないんです。それどころか、頬笑みを浮かべて、観客までも笑わせるユーモラスなセリフを言う。思わず笑ってしまってから、余計に彼の勇気が胸に痛い。プロフェソールの「いってらっしゃい」に「いってきます」とだけ答え（この短い会話がまたニクイ）、スキャットだけの歌を歌いだすボア。仲間と歌っていた陽気なナンバーを、繊細な裏声で高く、遠く、それでも途切れない強さを持って。 プロフェソールが去った後、ピルリトが出てきて祈りの歌を歌い、ボアと重なる。この歌は死者を弔う歌ではなく、彼らの生きたいという強い祈りを込めた歌。 坂元さんは今回たくさんのナンバーを歌っていますが、どの曲もイイ！ 別れの場面のこの曲と、歌詞つきのアンコールナンバーと、何故だか天然痘ソングが好き。ポルトガル語？はさっぱりわからないのですが、響きが何だかとっても好きでした。ＣＤ販売はないとかで、とってもとっても残念。ぐすん。 プロフェソール＝寺田役の横田栄司さんは、全編を通して抜群の存在感。常にちょっと外側にいなければならない役だったのですが、雰囲気がぴったりでした。 センイ＝安川役の平沢智さんは、複雑でナイーブな少年・センイの悲痛な歌声が印象的でした。金持ち夫婦を騙して帰ってきた後がとくに胸に痛い。彼をそのまま愛してくれる人のもとで暮らせたら、センイは幸せになれたかもしれないのになあと思います。 と、センイと言えば落下。びっくりするほど落下。舞台の天井近くから、一気にオケピまで。着地点がどうなっていたかは見ていませんが、毎回毎回あの高さを怪我なくよく落ちたな〜と思い出すだけでも、ちょっと背筋がぞくっとします。他のアクロバットシーンも含めて、見事な体技。 ガトを演じた吉野圭吾さんは、とにかく身のこなしが美しく華やか。個人的にはドーラにひっぱたかれた後の「いってー」の平坦な言い方がツボ。いかにもこういう最低男いるよなあってかんじで。（すみません、しづむとしては褒めてます） あと番外で気になったのは、ジョゼ神父。声が何だか妙に色っぽい。「いいえ、私は何も盗まれてはおりません」のセリフは、そんじゃあ手荒く身ぐるみ剥いでやろうじゃないかと思わず襲いたくなりました。←さすがに少数意見と自覚してます（苦笑）まさか食べてばかりの研究生役＝福永吉洋さんが演じているとは千秋楽まで気付きませんでした（笑） 裁縫が得意な研究生の阿部よしつぐさんも大変可愛かったです。華奢なうなじがショタ心をくすぐるかんじ。 と、さみだれ式に語ってみましたが、こうしてみると本当に見所いっぱいの舞台でしたねえ。とくにココが！というよりも、あちこち、そっちにもこっちにも見所というかんじで。 物語そのものは正直消化不良の感がありましたが（もっと繰り返し見て、脳内補完が始まるといい感じになると思うんですけど、今回は3回だったもので）、ドキドキハラハラ目まぐるしい展開に「観たーっ」という満足感はたっぷりの舞台でした。 ……ん、それとも案外、それだけでいいのかもしれません。指の間からこぼれ落ちる砂の流れのようにはかない、束の間の人の時間。でもその間を生きた砂の戦士と呼ばれた少年達や、小さな劇団で足掻く劇団員達は、幻じゃない。たしかにそこにいた。そばにいてもなくても、互いの存在を心のどこかで感じあい、認めあっている仲間たち。ただそれだけで、いいのかもしれません。 あ、でも、再演は観たいところ！ 今更ながら頭をグルグル回って離れないナンバーがいくつも出てきているので、是非是非記憶の新しいうちにまた会いたいものです。短い期間を駆け抜けていった、砂の戦士たちに。 |