五条霊戦記。これは私にとって大変な映画でございました。ビデオが出たら入手すると思いますが、そのときはきっとエロビデオを手にする中坊のごとく、羞恥に震えることと思われます。

　そして芥子丸。彼は非常ーに大変なキャラでした。映画全体としては、鉄吉がいちばん印象に残ったキャラクターなのですが、私のツボの底「主従論」に絡めて、とにかく芥子丸を語りたいと思います。

　まずは顔。予告を見た時点で「い、今の美少女は女の子！？男の子！？」（日本語矛盾してますが、あえてこういう表現）と狂喜しました。肉体からかけ離れた、精神的な部分での他人への執着（その是非については別として）を表現するに、男であっても女であってもいかん、というのはあっちこっちで言っている私の持論ですが、まさにこれよ、と感銘を受けたものです。

　いや、生身の役者さんは割と普通の男の子なんですが、本編の中での「芥子丸」は脚本・衣装・演出・セリフどれをとっても完璧でした。薄暗い照明に、光をほのかに集める白い肌、かすかに身じろぐものの声にはならぬ朱唇のかわりに、長めの前髪を透かして、物語る瞳。で、クライマックスだけ「遮那王様ー！」の絶叫。はあ、何という美しい存在でしょうか。

　そして何と言っても「影武者」という役どころ。

　これはつまり、主の代わりに殺される役、と私は理解いたしました。それも無理やりイヤイヤではなく、本心から主のために命を投げ出す影武者。

　私のツボを端的に申し上げれば「主従関係」なのですが、その理想をこの影武者君に見たのでした。何しろ、遮那王様のことしか見えていない、考えていない。芥子丸役の細山田君には「この年で千人の人を殺している役」という説明がされたようですが、本来ならば人を殺めることには何らかの罪悪感や恐れがつきまとうところ、主しか見えていないからその他のことがどうでもいい、というか麻痺してしまっている役どころ、と勝手に解釈いたしました。

　本編でも、セリフなく、遮那王の一挙一動にのみ反応するその存在は、思ったとおりでした。

　主しか見えない。自分自身には欠片の価値も見ていない。主のために働き、主のために捧げた命にだけ、傲慢なほどの誇りを持っている。主のためになら他人や自分を殺すことに何も感じない（主の受け取る以外の感覚を故意に受け付けないようにしている）、むしろ主のために投げ出す命は崇高な悦びである。こういう、自分の価値をすべて他人である主に依存している、ある意味イっちゃった人。……是非はともかくとして、私はこういう人の感覚がよくわかりますし、その純粋な愚かさが愛しいです。

　とはいっても、べったり甘えているわけではなくて、主のために働くというところでは、むしろ禁欲的で自虐的に、自分を追い込んで生きています。どこまで己を消して、主の影になりきれるか、同化できるか、どんな瞬間にも全身で主の気配を感じているのです。（……ほら、だんだんヤらしくなってきた）

　しかも、その想いは恋ではない。恋だと、相手をどうこうしたいとかどうしても出てきますが、そういうのは一切なし。求められれば体も与えますが、まあ、従者ならば当たり前でしょうが、能動的ではないんですよね。欲しいのは主じゃなくて、つまるところは主に仕える自分なのかもしれません。

　ただ精神的な執着だけに着目すれば、カラダのくっついた恋愛よりも、はるかに激しい執着だと思われます。（それを向けられる人間が幸せかどうかはまったく別として）

　一方、こういう従者が仕えたがる主のほうなんですが。

　従者が自分に尽くし、傍らに控えているのは空気のように当然のことと思っております。（そうでなきゃ、そんな強烈な従者の主はやっていられません）思ったところで従者がいないと、激怒すらします。傍にいないと例外なく荒れます。

　そのうえ感謝などは微塵もしていないので、気まぐれで当たったり、うざいと無視したり、気が向くといじめてみたりします。

　……だんだんある人が浮かんできましたね。ハイ、自分の作品で恐縮ですが「落陽」の嘉がまさにこんな主です。

　しかしこれは、ひとつの愛です。許してくれるとわかっていてわがままを言う。すぐ怒る人にわがままを言えないのはそりゃあ道理ですが、わかっていて絡むのは、甘えという立派なコミュニケーションです。高度な精神的ＳＭです。（マスター＆サーバントなんだからＳＭなんですけど）

「消え失せし者」の遮那王も、描写不足かつ芥子丸視点なので冷酷に見えますが、芥子丸のことはとても可愛いがっております。少々の愛玩動物的な部分も否めませんが、尽くしてくれる従者はやはり可愛い、自分のモノなのです。唇に落とした視線は、決して芥子丸が恥じ入っているようなものではなく、単に見惚れているだけですし、喉の傷を撫でるのは、自分がつけた傷の確認といたわりから来る仕草。痛いことを強要するのは、寺稚児だった彼なりの愛情表現なの？でしょう。（って、こんなところで描写不足の解説をやるなよ……）

　つまり、「あなたになら殺されてもいい」従者に、主が気まぐれ放題に甘える、これが私の理想の「主従関係」なのです。

　なお、主従関係に肉体関係は不要と、私は常々思っております。（鬼畜ショタなので、いたいけな美少年はついいぢめてしまいますが）カラダがごっちゃにならない分、精神だけのほうが執着度は強いと思うのですよね。

　またウチワ話ですが、実は嘉はＭ傾向が強いです。Ｓ度と同じだけ、Ｍ度も持っています。にもかかわらず、潁のほうでは「あなたの意のままに」で自分の意をまったく押し隠してしまっているので、嘉はいつまでも満たされないんですねえ。（満たされると、某大先生のナリス＆ヴァレリウスのように甘々になってしまう気がする……と最近「凶星」を読んで思いました）はあ、落陽の描写不足解説まではじめてどうする。

　いい加減に、芥子丸に戻りましょう。

　芥子丸にもたしかに、そういう思いつめた従者の姿を、私は見ました。間違いなく、遮那王様より後には絶対に死なない、と思っていたクチ。それが、目の前で遮那王様が……落雷心中（苦笑）さぞかし天地がひっくり返る思いだったことでしょう。

　そこから、あの衝撃のラストにつながるまで。（コスプレ必然性のなかった剛人も含めて。笑）私にとって、最大の懸案事項でした。

　映画を見た直後はわからなくて……悶々と考え（妄想し、が正しい表現）出た自分なりの答えが「消え失せし者」だったのでした。そういう意味では、影武者・芥子丸はやはりあそこで死んでいたのかもしれません。最後に「義経」を名乗った男、あれが真実誰だったのか、うがった見方をするのもまた一興かと思います。

　何だかちっとも芥子丸を語っておりませんが、とりあえず今日のところは満足しましたので、このへんで。続くとすれば……またコテコテ主従論になるかしら。

　追伸：うっかり私のパロディから先に読んでしまった方！本編ではＨシーンはございませんからね！あれは私の妄想の産物です。あしからずー。