「赤い夕陽のサイゴン☆ホテル」 2005.8.5〜28ル・テアトル銀座／9.2〜8シアター・ドラマシティ／9.10〜30名鉄ホール 今回は、東京で５回、名古屋で３回、合計８回観て参りました。仕事の自由が利く夏だからって、我ながらクレイジーな。本当は年明けの「屋根の上のヴァイオリン弾き」のモーテルをこのくらいの回数観たいところ、仕事のスケジュール上絶対に無理なので、反動といったところでしょうか。 以下、容赦なくネタバレですのでご注意。 ストーリーは、ベトナムのサイゴンを舞台にした大人のラブ・コメディでした。売れない歌手上がりの作詞家・ユキ（藤山直美さん）が、別れた夫・小野寺（今井清隆さん）に会うため、マネージャーのオッチャン（尾藤イサオさん）とともにサイゴンへ。怪しいガイドのバオ（駒田一さん）と入ったレストランで、主人夫婦（渡辺哲さん、小林美江さん）の借金騒動に巻き込まれる。借金の取り立てに来たのは、別れた夫その人で、若い日本人ホステス（山田まりやさん）と一緒に暮らしているという。さらに主人夫婦の妹のタム（宮菜穂子さん）や、小野寺が任されているナイトクラブの従業員のグェン（佐野瑞樹さん）も加わって、ベトナムの裏通りを舞台に大騒ぎ。 人情味あふれるユキの、明るく豪快な「大阪のオバサン」キャラが舞台を笑いとともに展開させ、最後にはとびきり甘い結末が待ち受ける。劇場に来た客は、お腹を抱えて笑って、ストーリーの何が残るわけでもないけれども、甘く幸せな気分をもらって帰るというスカッとしたお芝居。普段私が観る舞台より、客席の年齢層もかなり高めのようでした。 東京に始まり、大阪、名古屋と２ヶ月間に渡る公演ですから、初期と千秋楽付近では大分変化があったようです。日替わりの小ネタはもちろん、セリフ回しに込める感情も日々変化。東京初日と名古屋千秋楽を見比べた私としては、時期的なものなのか、お国柄も反映しているのか、東京のほうが比較的あっさりめに感じました。 とくに違いを感じたのは、個人的に涙腺のツボだった、ユキが「今でもまだ好きやねんから」と別れた夫への想いを洩らすセリフ。東京では本当にポロリと口走ってしまった口調で、その後もどこか照れ隠しのように笑いの雰囲気に流します。このあたりの流れが明るくサバサバしていながら、胸にチクンと来る意地らしさで、東京ではハンカチを目に当てていたのですが。名古屋千秋楽では「今でもまだ、好っきやねんから……！」と相当にタメ、チョーンと拍子木を鳴らす歌舞伎の決めセリフ調になっていて、しかも客席が拍手までしたものですから、逆に引いてしまいました。これは、地域的な好みなんですかねえ。ここで入り込めないと、ラストのデュエットを冗長に感じてしまったり。 他にも、冒頭で「オッチャンの『まかしといてください』に、私が何度酷い目に遭ってきたと思うてるんですか」というセリフ、東京では冗談めかして言っていたのに、名古屋ではかなり本気でキレていて、ユキのキャラクター自体変わっていたのかなあとも思います。オッチャンの還暦祝いでもある旅行なのに、何でもオッチャンに任せた挙げ句、過去を責めて怒るかなあ。舞台の空気はほぼユキ一人のキャラクターに委ねられているだけに、違和感を感じてしまうと辛かったです。 夫婦のラブシーンが濃厚になっていたのは、全然構わなかったのですが（しかし、前半で入り込めていなかったせいか、名古屋でのラストの幕が下りる刹那のキスも観飛ばしていたみたいでした、私）舞台全体としても東京でのほうが好みでした。 逆に、ルミとグェンの若いカップルは、名古屋でのほうが自然になっていました。最初は金の亡者（笑）に見えたグェンが（女は好きじゃなくて、「男と男の約束だよ」なんてあたりはホモくさくもあったり？）、ぎこちない日本語でルミを許すのが可愛い。ただ見つめ合うだけで、抱擁もないラブ・シーンはプラトニックで好みです。 さてさて、私のお目当て駒田さんのレポに入りましょう。 ベトナム人ガイドのバオは、一見ニコニコ笑顔で、なまり強いの日本語で愛想を言う可愛い？人です。それが、陰でドラッグの売り買いをしていたり、端々にアヤシイ言動を見せ始める。そして二幕途中でグェンと口論になったのを機に、ガラリと表情を変え、ナイフを取り出し薄ら笑いで大暴れ、という二面性のある役どころでした。 こういう役が本当にハマるんですよね、駒田さん。初回観劇時ではその豹変ぶりに度肝を抜かれ、二回目以降では、ニコニコ愛嬌演技をしている中にもふと剣呑な表情を垣間見せ、後半への伏線を張っていることに気付きます。役ごとにまったく違う顔を見せて驚かせてくれる役者さんですが、同じ舞台の同じ役ながら、これだけ違うというのはスゴイです。実際の人間も、悪人はいつも悪人面ってわかりやすいわけじゃないですもんね。善人に見えていた人が想像もつかなかった本性を見せる瞬間は、ぞっとするほどリアルです。 ちなみに役者・駒田一の、明るく人なつこい笑顔と、人を人とも思わない恐ろしい表情、どちらが好きかと聞かれたら……その双方が矛盾なく存在している多面性の虜、ですかね。その存在だけで周囲をふんわり和ませる空気と、その視線だけで背筋がぞっと凍るような殺気、両極端なその間のどこかに、人間の体温を持った本性がひそんでいるのだろうと思うと、その広さ・深さに吸い込まれそうになるファン心理なのです。 ちなみにパンフレットのスタッフ一覧によれば、乱闘シーンのＴＡＴＥ＝殺陣？は駒田さんの振り付けだったようです。刀がゆったりした曲線を描くチャンバラとは違って、ナイフの短く直線的な動きにハラハラ。迫力のあるシーンでした。ひっくり返ったグェンが、靴の裏でナイフをガードするあたりとかあまり見かけない振りでしたがリアルでしたね。でも今井さんはちょっと、ユキにも指摘されていたように「ハアハア言い過ぎ」だったような（笑） あと、うーん、今回ミュージカルではないのですが、カラオケの形でふんだんに歌があったのに、駒田さんのソロがなかったのが心底残念です。どうにかこうにか、一曲くらい入れて欲しかったものです。まあその分、カーテンコールの「星空の下で」は声がびんびんに響いていたのにはウットリでした。バンドマンに目配せしたりして、楽しそうに歌っているのがまたウレシイ。「星空の下で」はいい曲なので、ファンはまるまる駒田さんのソロで聞いてみたいとも思います。 さて、以下細かい萌え話。 まずは、駒田さんの手品が見られてうれしかったです♪ 大げさなマジックではなく、その場の余興的にちょちょっとやるんですが、これが鮮やかなお手並み。割り箸を消してみたり、ハンカチを触れずにクイクイ曲げてみたり、オッチャンの扇子が宙を飛んでバオの手に収まったり。きっと糸の仕掛けがあるんでしょ？と頭で考えはしても、実際に目の当たりにすると、魔法にしか見えないこの不思議。観客の驚いた顔を確認して、にやっと見せる笑顔がたまらなくて以下思考停止ってのもありますが（笑） 実は新参者のファンなので、ヴァレリウスや道化役のナマ手品は見たことがなく、駒田さんの手品を見たと言えばダダの姿を消す演出くらいだったんですね。だから今回は、その場で手品とさらにその後の笑顔が見られて、そりゃあうれしかったです。どういうわけだか小柄なマジシャンは私のツボ直撃で「キャッツ」でもミストフェリーズしか目に入らなかったしな〜。 次に、今回はベトナム人の役ということで、駒田さんは全編ベトナムなまりの日本語もしくはベトナム語でした。ベトナム語はすごい迫力なんですが、何を言っているのかワカラナイのが残念。表情と声と物語で想像していますが、とくに乱闘シーンの罵詈雑言はどれだけ口汚いことを言っているのか、Ｍの心理で気になります。（何よソレ） いっぽう、ベトナムなまりの日本語は、愛嬌たっぷりのしゃべり方のうえに舌足らずで……実は私の萌えツボでした（笑）ニコニコ「行きまちゅよ！」とかガイドされたら、私ゃもうどこへだって行きますよ！ ユキは「あのガイド射殺して」なんてひどいことを言っていましたが、私はむしろあのガイドにニコニコ怪しい倉庫に連れ込まれたあげく、身ぐるみ剥がれてコンクリ詰めも本望です。射殺よりは接近戦のナイフがいいな。（さっぱり意味不明） そして特筆しておくべきは隙間コント（笑）ホテルとレストランの間に５０センチほどの狭ーい隙間がありまして、ガイドのバオが「近道ネ、とてもベンリ！」と頻繁に出入りしているのですが、ユキには狭くて……というもの。しかし、不敬なファンとしては、バオにも狭そうでかなりドキドキしてしまいました。ゴゴゴゴ、ゴメンナサイ；正直、余裕だったのはオッチャンだけよね……。初日、冒頭のルミとのシーンの後この隙間に消えたときには、途中に引っかかっていないか、目を凝らして覗き込んでしまったものでした。見えるわけもないんですけど。 ちなみにユキは、この隙間を伝って出てくる際、東京では顔を白く塗ったりして笑いを取っていましたが、名古屋ではさらにネタとしてエスカレート。私が見たのは、オバケ系のヌイグルミを背負ってくるバージョンと、工事用ヘルメットをかぶり、メジャーを持ったバージョン、千秋楽はくす玉を持って登場でした。個人的にはヌイグルミ背負っているのが可愛くて好きでしたねえ。その後、レストランの主人が借金バレした神妙な顔のままヌイグルミをいじっているのが何とも。 あと、気になった役どころは宮菜穂子さん演じるタムでした。歌手を夢見るタバコ売りの少女。なかなかいい役どころで、歌う曲数が一番多かったんじゃないでしょうか。宮さんはかつて「砂の戦士たち」で覆面の天然痘ダンスに参加していたときの記憶がありますが、あの頃から目を引くほど踊りがしなやか。歌唱力もあり、存在感がとにかく明るい。今回は特にオーディションの場面の「夢見るシャンソン人形」を楽しませていただきました。 とまあ、ちょっとのつもりが普通に長くなってしまいました。このあたりで、観劇記を終わりたいと思います。次は、駒田さんの歌声を心身浴びるようにたっぷり聴きたいよう！というところで。とりあえずＣＤ聴いてます……。 |