Ｒｙｏｍａ～妄・想・文

Ｒｙｏｍａ～夢・信・動

2002.12.6～12.8　アトリエ・フォンテーヌ

　駒田一さんの坂本竜馬。最初にこのキャスティングを聞いたとき、正直まったくイメージができていませんでした。だって坂本竜馬といえば「でっかい」「豪快」「げにまっこと……じゃきに」な人。そして私の駒田さんに対する独断と偏見のイメージは「でっかくはない」「ひょうきんに見えて芝居は繊細」「オレ……だもんね」（本当に偏見です）共通項が一個もない。

　……あ、共通項あった。「わしゃ近眼じゃきによう見えん」ただの近眼かよ、ってかんじですが。このセリフで以蔵さんとか額がくっつくほど顔を覗き込んで赤面させる竜馬が個人的には好きなんだよなあ。駒田竜馬で見たかったなあ（腐れ脳の戯言です）

　ところが実際に見てみたら、納得しました。駒田竜馬、素晴らしかったです。

　というかもう、いきなり殺陣の初登場の場面から、瞳から放つ力が凄い。剣を上段に構えて、剣ではなくて眼差しで舞台だけでなく客席を斬る大迫力。星が飛んでいる、等という次元ではないです。強烈な熱光線でもあり、なおかつ万物を吸い寄せる引力でもある。あ、これだ。これがこの舞台の竜馬なんだ！とそれまでのいろんな違和感が消し飛んだ瞬間でした。

　そこから展開される駒田竜馬は、これまでの私の竜馬のイメージが違ってたんだなーと思うくらいに説得力がありました。ちなみに私の竜馬のイメージは、キャラメルの芝居or関俊彦（アニメのおーい竜馬ですな）と非常に偏ってます（笑）司馬遼太郎くらい読んでおけよ。←実は昔に挫折したらしい。

　駒田さんの竜馬は、とても素直で人間らしい。夢を追っているときの子供のようにキラキラした瞳、絶望と悲痛に流す涙、親友への信頼に満ちた眼差し、好きな女性の前で見せる和らいだ表情。人としての弱さを隠さないからこそ、かえって大きく強く見える。あの人は特別だから、ではなくて、もう少し自分の身近に感じられる。その大きさを肌で実感できる。そんな竜馬でした。

　さな子に対する態度なんかもとてもやさしくて、今回はラブシーンがとっても素敵でしたねえ。「好きじゃ。好いちょる」清純なさな子とのプラトニック（と言いつつ、勿体ながる本音がよし）な関係と、「うちにはあんたみたいな人、ぴったりどす」気丈なおりょうとの夫婦愛。いい女がいてこそ、いい男っぷりも際立つものですな。個人的には「晩飯の魚は焼いたのより煮たのが好きじゃ」さな子に言い残して出かけていく場面に胸キュン。大きな夢と日常茶飯事が均等に同居している男って、どうにもたまらんツボ。

　そして今回、イメージどおりでハマリ役だったのは川本昭彦さんの武市半平太。

　清廉で堅物で潔癖ゆえにどこか不自由な、根は淋しがり屋のアギは、ルックスイメージから演技から、そのもの。土佐勤皇党のナンバーは今回いちばん好きで、まるで悪役の如く力強く歌い踊る野郎どもと武市先生には血沸き肉踊りました。竜馬との「アギ」「アザ」呼び合う友情は熱く、道は別れながらも信頼しあった眼差しは胸に痛く。アギが死ぬ場面ではもう……この場面の竜馬の表情を見るために、わざわざ後ろの席に座ったほどです、私。

　ちなみに「歌い踊る」と書きましたが、これはしっかりミュージカルでした。かなり歌比率の高い。以前にも書きましたが、私は本来ストレートプレイのほうが好きな人間です。だって、旋律がついちゃうとセリフが頭に入ってこないんだもん。（旋律とセリフに込められた感情を同時に解釈するには恐らく脳味噌が足らんのでしょう）しかも幕末なのに、思い切り西洋風のミュージカル。初回の冒頭少年竜馬と乙女姉の場面などは軽い眩暈を覚えたほどでした。

　が、一度通しで見た後は、こういう表現もありかな、と思えてくる。土佐勤皇党のナンバーはもうそれだけでカッコいいですし、竜馬の政策を「ひとつ、すべての詔勅は……」と高音で歌う場面はとても好き。（厳密には歌っぽくはないですけど）

　衣装はあんまり幕末じゃありませんでしたが、大変に好みでしたので、もう何でも可。とくにおりょうさんの衣装はどれも素敵。白い着物もどきに色鮮やかな羽織をかけて、色帯を前に垂らしたり、着物なのに襟をフリルで飾っていたり。さな子さんなんか着物っぽいデザインの白いワンピースでしたし。竜馬はオレンジ系の迷彩柄着物で袖はすだれ状、袴は白、髪は頭の上だけ縛り、バカボンドか信長かって雰囲気でしたが、それも可。

　何よりこの舞台は、布の使い方が秀逸。薄い白紗を垂らして幽玄な雰囲気をかもしたり、布を集めてライトアップして帆布に見立てたり、幅広のゴムひもを舞台の縦横にめぐらせてダンスのメリハリにしたり。曲にあわせてびよよんと縮むゴムの使い方とか、以蔵を捕らえる場面とか、とても効果的でした。

　いちばんのお気に入りは、赤い紗を組み合わせた龍。中国の正月とかに見る、龍に近いようなものですが、もっとシンプルで透ける赤い布だけなので、かえって動かしひとつ方で表情が出る。ラストシーン、舞台の上から下へとうねり昇っていく龍と中二階に立つ竜馬の演出はもうもうもう、素晴らしかったです。ああ、竜馬は昇竜なんだ……ってかんじで。

　とまあ、書き殴りましたが、休憩含めて約3時間の舞台、たっぷりと坂本竜馬の生き様を堪能して参りました。あまりにもダイジェスト的な流れとか、全体の歌唱力と演技力のバランスとか、気になるところもあることはあるのですが、間違いなく新しい坂本竜馬像の生まれた舞台だったと思います。