例のごとく、ネタバレ感想ですのでご注意を。

　お話としては、ハートウォーミング系なのかな？　経営不振に陥っていたレストランが、事件をきっかけに変わっていく、けれど……あらすじにしてしまえば一言ですが、それをどう魅せるかが物語。

　笑いあり、涙ありで、観終わった後、自分も頑張らなきゃな、と思わされるお芝居でした。真面目に頑張っていない自分が恥ずかしくなると言うか。でも一度逃げてしまったことに、再び正面から向き合うのは難しいんですよねえ、恋も仕事も人生も。と、若干自己嫌悪モードに入るのもどうかと思いますが。ラスト、夢物語で終わらない、あえて現実のほろ苦さを残すところが好きです、ハイ。

　で、後はいつもの紀伝体（役ごと）で語ります。

●ゼンさん（駒田一さん）

　ＴＤＶ千秋楽から一週間も経たずに迎えた初日。お稽古・役作りともに大変だったと推察されますが、客席がそういう心配をする次元じゃないんですよね、当たり前ですが。クコールとはまったく違う人物が、舞台に立っていました。

　才能があり、かつては野心もあり、ちょっとワンマンなところも含めて部下に愛され慕われている、天才料理人。その結果、一番弟子のシュウジが亡くなってから噛み合わなくなったあれこれを、一人で抱え込んでしまって身動き取れなくなっている。こういう人、リアルにいるよなあと、しみじみ。

　親近感があるのか、駒田さんの地の性格に比較的近い部分で役作りしているのかな？と思いました。何気ない仕草や、陽気で意地悪なところとか。←捨蔵を名前ネタでいじめるあのタイミングがいかにも駒田さんっぽい意地悪（笑）人の話を聞いたりするときに顔をいじる仕草や、笑うときに片目を細める表情なんかに、ファンはメロメロ。おなか触られて「気にしてんだから触るなよっ！」ってのも、限りなく素に近かったんじゃないですかね〜。ＴＤＶの頃より明らかに大きくなってましたもん、おなか（笑）

　それでなくても今回、素顔が見られて、歌声が聞ける、これだけでファンは舞い上がっておりました。ソロ歌はないんですが、劇場が小さいので、生で声が響きまくり。思い切りハモってるし、駒田イヤー（大勢の中から駒田さんの歌声を聞き分ける能力）のレベルが低くても、充分堪能することができました。

　ただ私は内心ＴＤＶどっぷりすぎて、ＴＤＶの片鱗もない役柄に「私のクコちゃんはどこに隠したのよ、返してよー」なんて気持ちにもなったものですが（お前は駒田ファンなのか、クコールファンなのか？）、不意打ちにクコールも見られて幸せでした。ゼンさんたら、店を離れている間、有楽町あたりで仮装行列していらしたそうです。つけ牙に背筋の曲がった歩き方で？（笑）怪しく長い前髪バージョンの変装もおっかしくて、小劇場の至近距離で見るには、笑い声をこらえるのが大変でした。

　サプライズとしては、終演後、役者による観客送り出しがあったこと。心の準備なしに客席を出て、劇場出口へ向かう狭い階段に駒田さんが立って鱈、そりゃあビックリしますヨ。自分のファンの顔を見分けて、駒田さんから握手を差し伸べてくださったのには、驚くやら舞い上がるやら。（まあそりゃ、顔にファンですってわかりやすく書いてあるんでしょうけど）

　うーんー、この急接近の後にＡＫＵＲＯまでしばらく会えないなんて淋しいデス。

●高田さん（ＫＡＺＺさん）

　面白かったのがこの人！　見事に「挙動不審なオッサン」に化けていて、当初はＫＡＺＺさんと認識できず。登場人物が出そろってから、消去法で「アレがＫＡＺＺさん？」と気付いたくらい。←これはかなりニブイ例です。

　後退した前髪を９：１に分け、頬にオレンジ系の濃いチークで赤ら顔、上フレームだけ黒縁クッキリのメガネ、蝶ネクタイに時代の香り漂う衣装に、泳ぐ目線と、挙動不審な動きにシャベリ。登場直後から、マスコットを大量につけた携帯で客席の笑いを取る。このストラップ、初日夜に見たより、千秋楽のほうが劇的に増えていて、おっかしかったです。その後も、腹に爆弾犯のようにずらっとリポＤくくりつけていたり、マイク使って説教絶叫したり、必要以上にスキンシップを求めてみたり、とにかく笑いを提供。でもいいこと言っているんだよなー、不思議に説得力あるんだよなー、というオイシイ役。

　お見送り等で素顔に戻ってると、そのギャップに驚きます。こんな飛び道具的な役のできる役者さんだったのか〜（笑）

●店長（ＳＨＩＮＧＯさん）

　今回の私のツボ役。小さい人が一生懸命頑張っている姿には、大変心打たれます。登場シーンの寝癖から「寝癖、寝癖、直してえ！」と客席が気になっているところ、捨蔵が寝癖をつまんでくれるのがツボ（笑）「どちらも信じていません」とかヒドイことも、さらっと爽やかに言えちゃう冷たさもツボ。彼女にはそりゃあ捨てられるでしょうが。

　店長と高田さんの二人のやりとりが、そりゃあ微笑ましくて可愛かったです。「ヨーソロ」とか実にどーでもいいネタが、妙に後を引いてしまう組み合わせでした。高田さんのコッテリ感と、店長の爽やか感がうまくマッチしていたんでしょうね。

　終演後見送りのときに言いそびれたので、ここで一言告白しておきます。「店長、とっても可愛かったです！」

●シュウジ、ツヨシ、イケさん、捨蔵、前園さん、出前さん

　シュウジさんは、思いのほか出番が少なかったですね。まさか回想ビデオ以外に生きているシーンのない役とは。白でぱりっと決めた衣装が格好良かったです。しかし美声と相まって、物言いは結構キツイ方のよう。ゼンさんとはズケズケ言い合う仲だったんでしょうね。そんで最初はぶつかり気味だったけど、居酒屋で大喧嘩した後にふっと笑い「……お前も師匠に対してズケズケ言うよなあ」「そりゃあ、ゼンさんの弟子ですからね」みたいなことがあったんだろうなと妄想が暴走。

　二番弟子のツヨシは、正反対に極端な無口。おまけに不器用。よく言えば背中で語る男、悪く言えば、周囲が察しないと誤解されまくりの面倒くさい男。好き嫌いで言われたら、私は苦手。アキちゃんくらい辛抱強く、面倒見がよくないとつきあっていられません。こういう男、いるよな〜。

　イケさんは格好良かったですね。いつも穏やかで、多くは語らず、だから一言の重みが違う。内面はすごーく熱い人なのに。そんでこの人も全部自分で背負い込むたちですね。こういうタイプばかり集まった職場だと、たしかにいろいろしんどいだろうな、とも思ったり。

　捨蔵は、ことなかれ主義のお調子者で、客席から観ている分には、リラックスできる貴重な存在でした。店長の寝癖つまんだり、ゼンさんのお腹揉んだり、他へのツッコミもなかなかグッジョブ。どの人とお友達になりたい？と聞かれたら、この人でしょう。

　酒屋さんは、少ししか出番がないわけですが。いい人ですね、人懐こくて。しかし「フォー」は、ちょいと古すぎやしませんかね？（笑）

●アキコ、リエちゃん、ユキエさん

　女性陣については、うまく見た目タイプの違う典型三人を揃えたもんだと思います。私服衣装にも個性が出てましたね。ナイスバディにデニムスタイルのしっかりアキコ、背が低くて元気ラブリー系のリエ、私服は髪をおろして意外にフェミニン・ロマンティックのユキエ。まさにそんな三人でした。

　アキコは物語のメインとなる人物ですが、ちょーっと男が夢見る女の理想が入っちゃってるかな、という気がしました。我慢強く、健気に男に尽くす。性格か、若いからできるのか、私ならさっさと投げ出す恋愛像でした。

　リエちゃんはお店での頑張りや、何気ない仕草や表情が◎。何と言っても可愛い！　小さくって、くるくるよく動いて、声質は一生懸命、パッチリお目々が印象的な、ハッポウの小林愛ちゃんみたいな、私の大好きなタイプですね。ただその分、恋愛の打ち明け話は意外だったかな？　ああいう美少女には、尽くす女より、大事に大事に尽くされる女になって欲しいものでございます。←お前のほうが美少女に夢見過ぎだよ……。

　ユキエも、実は健気に尽くすタイプの女だったんですねえ。男に振り回されて、年齢を重ねた女はああなるんだろうなあ。このお芝居、気付くとそんな女ばかりですな。私が恋愛場面にあまり共感できなかった理由は、このへんにあるのかもしれません。

　うん、ここまで書いてきて、何となく自分の感想がまとまった気がします。観ている間は、笑って笑って楽しかった。観終わった後は、自分も頑張らなくちゃと思うけれど、私はもうちょっと肩の力抜いた別の頑張り方をするぞ、と思います。