お熱い夜はいかが？ すっかり間が開いてしまいました。間にいろいろ（観劇とか映画とか自分の創作とか）ありましたので、若干うろ覚えになるかと思いますが、書いておきます。今回は何と言っても、連れが二人ともそれぞれに気に入ってくれたうれしい舞台でしたので(^^)←いや〜、いつもは私ばっかりはしゃぎすぎてたんですよぉ〜（笑） というのも「私が見ていたいつもの駒田さんの舞台」とは、少し雰囲気の違うお芝居でした。完全なコメディ、駒田さんは徹底して三枚目役、ぶっ飛んでいるようで地に足のついた大人のお芝居。観客としては、前半口をあけてゲラゲラ笑いっぱなし、後半でグッと来てホロリでした。（どんな状態だ） ちなみに今回、芸名を本名の「駒田一」の漢字表記に改めての駒田さんの、私にとっては初めての舞台でした。 さて、ここから早くもネタバレに突入します。いつかの再演のために見たくない！と仰る方はご注意ください。 舞台は、この夏最高気温の暑さ、クーラーの壊れてしまったレストラン「かもめ」（駒田さんファンはこのレストラン名で既に笑っちゃってました。駒田さんの宝塚時代の芸名ネタ・ゆりかもめちゃんが出典と思われます）一年前に女房に逃げられ、再婚しようとするオーナー・伸一と、そのフィアンセ・千恵子、挨拶に来る父親、そこに何故か突然帰ってくる逃げた女房・小春、小春に言い寄るマザコン男とその母親、騒動に巻き込まれるレストラン従業員（たぶん）・次郎ちゃんと、その妻・小夜子、さらに次郎の愛人と野次馬な電気屋を加えて錯綜するドタバタ劇。……はあ、登場人物の紹介するだけでも錯綜しますね。このへんが入り乱れる修羅場の面白さは、実際に芝居を見ないことにはどうにも伝わらないと思うので（設定だけ文章で書いたらドロドロ羅刹の家になりそうだ）、割愛します。←あっさりだな。 今回は一つ一つの役が本当に個性的で面白かったので、すべての役に一言レビューという形で参ります。 【春雨次郎：駒田一さん】 私にとって久々（何せお年始ライブ以来）の駒田さんは、三枚目役。冒頭の二日酔い一人芝居（説得力ありすぎました／笑）でとりあえず客を掴んだ後は、ひたすらどんどん情けなさをさらけ出していく、という役どころでした。女房にバケツの水をぶっかけられ、「俺が愛しているのはお前だけなんだよぉ」とすがりつき、と思えば愛人発覚、「おなかに赤ちゃんが」発言にも男らしい態度を見せられず、詰問されれば「ジロちゃんは帰りました」逃げ回るばかり。しまいには女房と愛人に結託され、余計なことはするし、気の利いたことは言えないし、通りすがりの電気屋に「この短時間にすっかり俺というものがわかっちゃったね？」把握される有様。正直、私はこういう旦那は持ちたくないなあ、と思いましたです（笑） しかし何と言うか、妙に憎めないことはたしかでした。やることはしょーもないのですが、いろいろな誤解が解けてありのままの「しょーもない」ジロちゃんは素直で、放っておけないというべきか愛くるしい。騒動に巻き込まれた最初のきっかけは、シンちゃん夫婦を助けようとしてですし、根本的に悪い人ではないのですよね。むしろ善良なお人好し。さんざん「こんなバカを亭主に持っちゃって」言っている女房も、自分の亭主であることを結局は認めています。一歩間違うと「女の敵」「最低」「許すまじ」になるのでしょうが、このへんの味わいさじ加減はさすが駒田さんといったところでしょうか。 冒頭で「結婚はね、愛情じゃないよ、安定だよ」等と悟りきったようなセリフを言っていた彼ですが、「新婚三ヶ月なのに愛人がいて、おなかに赤ちゃん疑惑」というヘビーな修羅場を明るい（いやー、本人は大ピンチですけどね）ドタバタのうちに呑み込んでいくパワーは、これも現実を生きるための一つのテーマかなと感じました。 とくに好きだった場面は、シンちゃんとの仲良しぶり、小春さんに引きずりまわされるドタバタと、女房から逃げ回るパニックぶり、ラストの窓から覗く顔ですね。情けなさ全開の役の駒田さんも、また味わい深く。 【木島伸一：川本昭彦さん】 ジロちゃんの幼馴染（推定）にして、レストランのオーナー（父親の借金込みの遺産）、真面目でやさしいシンちゃん。この役がもう、優柔不断で煮え切らなくて、川本さんの爽やかな笑顔がなければ「イヤじゃこういう奴」Ｎｏ．１だったかもしれません。（まあ、ひどい。個人的趣味でこういうタイプが一番苦手なもので）もちろん彼にも悪気はまったくないし、彼なりに守りたい一線もあるのですが、ラストでお父さんがシンちゃんを一喝してくれる場面は胸がスッとしました。「そういうのが人を一番不幸にする」まったくもって同感です。 の、割には私、シンちゃんの表情・仕草の可愛さにはクラクラしてしまいました。「ジロちゃんジロちゃん！」頼りっぱなしの仲良し加減は何と言っても微笑ましく、ハンサムだし腰は細いし（柳腰男にはめっぽう弱いのれす）、レースの可愛いエプロンつけてみたり、一人称が「僕」で台詞回しもいちいち可愛い。個人的ツボだったのが、ジロちゃんシンちゃん取り違え錯綜中の「次郎ちゃん？」「ハァイ」の微妙にホに近い発音。←いやこりゃー実際に聞いた人でないとわかんないって。 しかし意外だったのは、連れの一人（男）が「今回いちばんのヒットはシンちゃん」と言い切ったことです。もう一人の連れ（女）とは「ああいう男はちょっとね」で意見が一致していたのですが、男性から見るとまた深いキャラクターなのでしょうか。ちなみに高校時代の同級生を思い出して会いたくなったそうな。男の友情って深いなあ（笑） 【鈴木千恵子：安東聖さん】 シンちゃんの年の離れたフィアンセ。料理も出来ない世間知らずのお嬢様ですが、気が強くて一生懸命で可愛い。「しおから、燃え出しちゃったの」「それはひょっとして火事ってことかい？」「うん。このままだとしおからの丸焼きになっちゃうけど、どうしたらいーい？」このバカさ加減が可愛くて……うう、可愛い女の子にはとことん弱い私です。 結局フィアンセのシンちゃんにはフられてしまう彼女ですが、愛もない優柔不断のシンちゃんと結婚しなくてよかったなあと思っております。もう少しお父さんのもとで成長して、イイ男を見つけてください。と、どこまでも甘い私。コギャル系じゃなくて、黒髪古典的お嬢様だったらさらに好みだったんですがね。（いやラストの伏線として、小春と似たような格好だったんだとは思われますが、好みのお嬢様系がいなくて淋しかった模様） 【春雨小夜子：水野江莉花さん】 新婚三ヶ月のジロちゃんの奥さん。この人は笑ったまま怒る表情が、もう本当に怖かったです。「般若の顔して笑う」とはよく言ったものだ、ジロちゃん。夫の愛人が発覚してしまった春雨夫婦がこの後どうなるのかは劇中では描かれていませんが……とりあえず夫婦の力関係が変わることはないでしょう。最初から圧倒的に奥さんのほうが強かったもの。 しかし何と言うか、この人も次郎さんを甘やかしているんだなあ、と最後には思いました。 【加藤喜久江：宇野淑子さん】 シンちゃんの逃げた女房・小春に言い寄るマザコン男の母親。和服姿できりりと登場、玉を転がすような涼しい美声で場を取り仕切ってくれます。今回、どの役者さんも声が魅力的で「舞台役者は顔より声」と思っている私には心地よかったのですが、高音の響きがピカイチ。 息子を甘やかし放題なのかと思えばそうでもなくて、小春とシンちゃんの復縁を一人の女として強引にプッシュする姿は大変快かったです。ネタでは「あなたは圏外なの」が非常にウケを取っていましたが、ラストの「タァクスィー♪」も個人的に大好きでした。 【小春：針樹葉子さん】 逃げていきなり帰って来たシンちゃんの女房。この人も、声が良かった！ちょっと気だるい低い響きは、色っぽいのにサバサバしていて、大変イイ女でした。キャラクター的には私とはまったく違うタイプなのでふーんという感じですが、シンちゃんのフィアンセに帰るように言われて「……やだ」という響き、あのへんの微妙な演技は応援せずにいられませんでしたね。 あとはラストの「お熱い夜ってのは、ど？」がゾクゾクするほど色っぽい。私としては、もう一言シンちゃんの口から僕はお前とやり直したいんだ、というところを引き出してからにすればいいのに、甘いわ！と思いましたが。（本当にシンちゃんに厳しい私） 【電気屋：広嶋耕一郎さん】 本来部外者のはずなのに野次馬根性でどこまでもノリ込んでくる愉快な電気屋さん。肝心のクーラーは「コリャダメだ」の一言で投げちゃったんですけどね。 いい味出していました。他人の修羅場を面白がるなんて歪んだ根性ですが、客席としては同じく無責任な傍観者の立場ですし、案外日常って深刻にしてても茶化してても結局は過ぎていくものですし、最後にお邪魔虫のジロちゃんを連れ出した功績に○。 好きなネタは「誰が少年院にいたんですか」「電気屋でーす」あんまり身近にはいて欲しくないというか、まずいませんよ、こんな図々しい人（笑） 【寺島瞳：琴英真子さん】 ジロちゃんの愛人。登場シーンのインパクトが強烈でした。陰気にシクシク泣きながら「伸一さん、あたし来ちゃった。おなかに赤ちゃんがいるんですぅ」ビン底メガネにひっつめ髪、くるぶし丈のレースストッキング。その強烈な様相で第一幕を締めくくり、泣きながら休憩時間のアナウンス（笑）さんざん笑わせてくれました。 最後にはジロちゃんの奥さんと意気投合し、次郎さんのことは「犬にでもかまれたと思ってあきらめます」吹っ切れてしまうと、やわらかい台詞回しが何だかイイ女。女って、怖いなあ。いや、この芝居の女性は全員漏れなく怖いんですけどね（笑） 【加藤幸一：中川宗成さん】 この方も登場から笑いを取っていました。「お父さん、僕は、絶対、絶対なのです！」マザコンというかかなり思い込みの激しい彼の口調は、一度聴いてしまうとつい移ってしまいます。口を開くたびに笑わせていただきました。 マザコンで、怪しくて、圏外フられ役で、でもほろっと見せる「小春さん。どうか幸せになって欲しいのです」男らしさは○。傷心の千恵子ちゃんを慰めるのはちょっと難しいでしょうが、彼にもどうか幸せになって欲しいのです。 【鈴木健太郎：大谷美知浩さん】 シンちゃんのフィアンセの父親。大会社の社長らしいですが、腰が低くて、大人で、カッコよかったです。この芝居のヤマとも言うべき、シンちゃんを叱りつけるシーンは大迫力で、客席の腹まで響く分、本当にスカッとしました。雨の中シンちゃんのジャージで帰る姿も男らしかったし（笑） 私はオヤジスキーではなくショタなので「くう、カッコいい！」で止まっているのですが、もう一人の連れ（女）はお父さんのカッコよさにメロメロになっていました。 あまりアピールをされなかったので当初気付いていなかったのですが、実はこの方がお芝居の作・演出だったのですね。なるほど芝居の要を押さえるという感じです。 ありそうでなさそうなドタバタ、前半で思い切り観客を笑わせて、後半で締める。描くのはシンプルでちょっと甘い大人の恋。手を広げすぎず、地に足のついた感じが小気味良い芝居でした。シンちゃんと小春とロマンティックな星空だけで終わっていたら物足りなかったかもしれないところ、窓から覗くジロちゃんと電気屋の笑顔を持ってきてオチにするセンスがまた好みで。大谷さんのお芝居は、是非また見たいものです。 千秋楽の挨拶では、大谷さんは他にも脚本を書いているそうで「また一年に一回くらいでも、こういうお芝居をやりたい」との駒田さんのコメント。楽しみが増えました(^^)というか、二人の連れは今回が相当ツボだったらしく、私以上に待ちわびてます？ |