子供の頃に大好きでシリーズで読んでいたメリー・ポピンズ。今回は贔屓役者の駒田一さんが舞台に出演と言うことで、とっても楽しみでした。

　けれど不思議なことに、物語の内容をよく憶えていません。「チム・チム・チェリー」がメリー・ポピンズの曲だと言われても、ピンと来ない。それもそのはず、原作小説→ディズニー映画でだいぶ物語がアレンジされ、ミュージカル版はディズニー映画をもとにまたアレンジしているんですね。いざ、ミュージカルを見ても、やっぱりピンと来ませんでした。そもそも、原作にお父さんこんなに出て来たっけ……？

　ミュージカルでは、お父さんのジョージ・バンクス抜きには話が始まりませんし、終わりません。一回目で「メリー・ポピンズってこんな話だった？」、二回目で「ああ、働き方改革の話か！」と理解した私。そういう理解で見ると、ミュージカルで感情移入すべきは、メリーでもなく子供たちでもなく、お父さんのジョージなんですね。そしてジョージが贔屓役者だったわけで、うむ！（合点）

　かなり時間が経ってしまいましたので、以下、思い出し五月雨式の感想になります。

　初回観劇の印象は「明るい」「色遣いまぶしい」でした。レミゼだのミスサイゴンだの、物語はどころか照明演出まで暗い作品が続いていたので、ファンタジーなくらい明るいハッピーエンドの物語で、明るい原色の色をそこかしこに配置した舞台は、久々に「ミュージカルって楽しい！」と思わせてくれました。

　でもその分、子供向けというか、物足りないかな？と思ったのも事実です。子役ちゃんが出ずっぱりで、この作品は親子向けなのかなぁ……と。

　でも2回目で、メリーは外からやってきた魔法使いで、子供たちもメリーから影響を受け育つけれども、大きく変化する物語を魅せるのは一家のお父さん＝ジョージだと気づいて、すとんと納得。

　子供の頃には星や神話が好きで、夢があったジョージ。それがミス・アンドリューの厳格なしつけで、夢を忘れ、妻にも型通りの役割だけを押しつけ、子供とも話をする余裕のない人間味のない父親になってしまう。銀行マンとしては、優秀なようですが。

　妻のウィニフレドは元女優で、本来は自由で陽気な人なのに、厳格なジョージの要求に応えるため苦戦中。子供たちは、逆にこんな家でよくもこんな奔放に育ったな(笑)というくらい元気。子守に酷い悪戯をして次々追い出したり、おもちゃを壊しても罪悪感を感じないわがまま暴君。

　この家に、まったく使えない使用人のロバートソン・アイを加え、家政婦ミセス・ブリルの苦労はそりゃ絶えないことでしょう。

　そこへ、スーパーナニーのメリー・ポピンズが空からやって来ます。子供たちの募集広告の条件は「やさしい」でしたが、どちらかというと怒りんぼ。けれど不思議な魅力で子供たちに言うことを聞かせ、魔法の力で不思議な世界を魅せてくれます。

　メリーの友達のバートは煙突掃除。一般的に汚い・きつい・危険な仕事だろうに、その素晴らしい眺望から「まちいちばんの果報者」と自負して楽しく暮らしている。煙突掃除以外にも、絵描きとして絵を売っていたり、自由。他にも彫像のネーレウスが動いて話をしたり、お茶会に女王が来たり、ミュージカルらしいファンタジックな展開に、子供たちはメリーを大好きになって行きます。普通の子守から見たら、メリーの育児は反則でしょう。

　私が観劇したのは3回とも濱田めぐみさんのメリーでしたが、歌唱力がずば抜けて素晴らしく、子供たちに言うことを聞かせる「サッサッサ」の口調が可愛らしく、とても魅力的でした。「何もかもパーフェクト」「お砂糖ひとさじで」あたりのナンバーは、明るく大らかなメリーの魅力たっぷり、歌唱力を堪能できるナンバーです。

　バートは、大貫勇輔さんを2回と、柿澤勇人さんを1回。逆さタップがあったり、煙突掃除のブラシを持って踊るシーンが多いので、ダンサー出身の大貫さんが好みでした。ただし、逆さタップのシーンは怖くて直視できず。最前列の席なんかもらっちゃうと、真上に脳天がぁ；ってなります。若い頃なら駒田さんはキャラ的にバートだったかな〜と妄想したりしつつ、逆さタップやられたらこっちの心臓が持ちません。どんなに安全でも怖い。実際、メリーが空中で停まったり、装置トラブルが相次いだ舞台でもあったので、怖さ倍増。

　あと動く彫像ネーレウスは長澤風海くん。DIAMOND☆DOGSの舞台で見慣れた大好きなバレエダンサー。全身をブロンズ色に塗りたくり、生身の人間だと思っていなかったので、彫像が動き出すシーンでまず「オッ」となる演出。動き出したら、かざみ〜の美しいダンス。中性的で人形めいた表情、優美な動きの軌跡には、風の流れが見えるよう。好き！　しかもDではまったく声を発さないのに、ネーレウスはよくしゃべる。しゃべる内容は「お父様に会いたい」まさかのファザコンか！　ラストで父・ポセイドンの彫像に巡り会い、仲良く寄り添った姿の像になるのが……逞しいポセイドンの足元に小柄なネーレウスがすがりつく形で、すごいBL臭(笑)いいぞもっとやれ！　これだからかざみ〜大好きです。

　それから「おしゃべりの店」のコリーを演じたエリアンナさん。極彩色のオウムみたいな衣装の人々が出て来て「スパカリ」を歌うメリポピの象徴的な場面で、歌ウマなうえに面白く、素晴らしい存在感で良かったです。初回だとピンと来なかったのですが、2回目以降は、物語の後の重要な伏線にもなっているうえに、体が「楽しい」と反応してしまうナンバー。

　売れ残った文字をつなげて生み出された「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」という架空の言葉が、この後の物語を動かす鍵となります。

　そして、物語はバンクス家のお父さん＝ジョージ・バンクスに戻ります。銀行家のジョージは、2つの会社の融資の決断を迫られる。とにかく利益を上げるという会社と、従業員とその家族を大切にするという会社。そこへメリーに連れられた子供たちが職場見学に来て、ジョージは怒って追い返しますが、子供たちとの会話から、ジョージは利益優先の会社を断り、従業員を大切にする会社に融資することを決めます。

　その後、ジョージの融資を得られなかった会社は、ライバル銀行で融資を受け、莫大な利益を上げます。結果的に、ジョージは会社に大きな損失を与えてしまった形に。クビを覚悟したジョージ。

　ほぼ同時にメリーは、子供たちのわがままを諌めるため、バンクス家を出て行きます。ウィニフレドが探し出してきた次の子守は、何と昔ジョージの子守をしていた厳格なミス・アンドリュー。ミス・アンドリューの顔を見るなり「怖い！」と逃げ出すジョージ。同じく家出する子供たち。

　そこへ空から帰って来たメリー・ポピンズ。魔法対決？でミス・アンドリューを追い出す演出はものすごくディズニー。彼女がひばりを鳥かごに閉じ込めていたように、最後は大きな鳥かごに閉じ込められて退場するミス・アンドリュー。お姫様よりも悪い魔女こそがディズニーらしさを出すんだなあ、と痛感した次第。

　メリーが帰って来て、喜ぶ子供たち。ずっとここにいて、とお願いする子供たちにメリーの答えは「必要なだけここにいるわ」さらにメリーは子供たちに「家族って時々あべこべなのよ」と示唆します。

　停職処分となり、売ろうとした家宝の壺も割ってしまい、どん底にいたジョージ。（ここで壺を割るきっかけになったミセス・ブリルを責めず、フォローしたバンクス夫妻はものすごくえらい）そこへ子供たちがやってきて「パパが困っているなら使って」と銀行でもらったお金を差し出します。これ、このシーンがこのミュージカルの肝。わがままだった子供たちが父親の窮地を慮り、父親も家族のことを思い出す。

　お金がなくても、愛する家族がいれば何とでもなる、と決意を新たにするバンクス夫妻。そこからは魔法のようなハッピーエンド。

　ジョージが融資を断った会社には実態がなく、ライバル銀行は大儲けから一気に大損に転落。逆にジョージが融資した会社は着実に利益を上げており、ジョージの銀行は大儲け。銀行はジョージに感謝し、戻って来るよう依頼。そこへ夫の弁護のために駆けつけたウィニフレド、給与交渉をして元の4倍の額に。女こええ。ジョージの出した条件は「これからは家族が優先です」働き方改革ですね(笑)

　成功の秘訣を聞かれ、ジョージの答えは「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス！」スパカリのシーンにジョージいなかったはずなんですが(笑)ジョージも子供の頃は、おしゃべりのお店に通ってましたしね。とにかく、メリーのおかげで？大団円。

　バンクス家にはもう自分がいなくても大丈夫だと確信したメリーは、空へ帰って行きます。ジョージが子供の頃から好きだった星空へ。舞台から、客席の頭上を通って3階席に吸い込まれていくメリー。メリーの衣装、たいへんに私好みでして、ブラウスにくるぶし丈のスカート、お尻はチャボで上品にふくらませ、スカートの中はレースとフリルでいっぱい。下から見上げても、レースとフリルで、ええ眺めじゃ〜。

　メリーをいつまでも見送る子供たち、その後ろで、バンクス夫妻はロマンティックにチューしております。贔屓役者のキスシーンなんて、そうそう拝めるものではアリマセン。とくに最前列上手寄りの席をもらった日は、至近距離のほぼ真正面。ほわあ〜と眺めるファンでした。

　それにしても、ジョージって厳格なふりをしていましたが「そんなことより、ウィニフレド、僕と踊ろう？」って口説いてみたり、本来はかなりロマンティックな人物のよう。星や神話が好きなんですから、おもちゃを物としてしか見ない子供たちよりむしろ夢見がちかもしれません。

　子供たち、ジェーンとマイケルは、出ずっぱりで本当にお疲れ様でした。「ジェーンの衣装、桜色のワンピース（セーラー襟）が可愛くてさあ。大好きな桜色」と贔屓役者がうっとり語っていて、そういう趣味か〜と思ったのが印象的でした。バンクス家のあるチェリーツリー通りにちなんで桜色なんだと思いますが、結構サーモンに振った濃い目のピンクでしたね。ああいうピンクは持ってないな〜。（いや私が着たところで意味はない）

　あと舞台には関係ありませんが、今回は物販が可愛くて、バッグチャームと傘を買いました。傘は持ち手にパロットがついてる、メリーポピンズも持ってる傘です。残念ながら防水加工がされていないとのことで、実用ではありませんが、駒田さんにサインをいただき、今は玄関に飾ってます。パロットちゃんかわいい。

　とても楽しいミュージカルなので、再演がきっとあると思います。再演があるなら、次はもうちょっと計画的に通いたい。そんなメリーポピンズでした。

コンテンツに戻る

fin.