| Ｍ ・ Ａ ・ 観 劇 記 |
「マリー・アントワネット」
博多座2018.9.14-10.30／帝国劇場10.8-11.25／御園座12.10-12.21 ／梅田芸術劇場2019.1.1-1.15 生で観劇してからは随分間が空きましたが、DVDを見ながら感想を書いています。好きな作品なので、こうしてDVDで楽しめるのはうれしいですね♪ あ、当然のようにネタバレで書きますのでご注意を。 私、M.A.初演は観ておりません。「暗い」「重い」「リピ辛い」よくない評判だけを聞いておりました。マリー・アントワネットがギロチンにかけられて終わるという……そりゃあ辛そうだ； チケ予約の際も、ちょっと控えてしまいました。（何せミス・サイゴンのリピが辛かったので） でもいざ新演出を観てみたら、そんなことはありませんでした。たしかに暗くて重いし、マリーアントワネットがギロチンにかけられるまでの物語ですが、前半の宮廷シーンは華やかで好みのドレスがたくさん、シーンごとのテンポも良く、飽きることなく見られます。首飾り事件から歴史が大きく動き出し、重過ぎる運命を負ったマリー・アントワネットから目が離せなくなる。 物語にはもう一人ヒロインがいます。マリー・アントワネットと同じイニシャルのマルグリット・アルノー、革命側で大きな働きをする女性。初演ではマルグリットの描写が多めだったらしいのですが、今回はマルグリットの描写を抑え、マリー側の描写を増やしたとか。私は断然、マリー側に移入して観ていました。ただし、視点はマルグリットを通して。 マルグリットは前半「民衆から搾取して贅沢三昧のマリーは悪」として訴えますが、後半で革命側が暴走し、マリーの心情も見えてくると「革命は正義か」「マリーは悪なのか」視点が揺らぎます。物事は善悪で割り切れないわけで、そのへんがこの舞台の肝でもありますが、揺らぐ視点で見るマリー・アントワネットの人生は強烈。 マリーはＷキャストで、姫役者と名高いの花總まりさんと、どちらかというと庶民役の多い笹本玲奈さん。花總さんはさすがの気品とドレス捌きで、冒頭からラストまで、生まれながらの姫らしく毅然としたマリーを魅せてくれました。 けれど私が好きだったのは、笹本さんの演技プラン。前半は、庶民の窮状を知らず、物事の善悪を知らず、自分自身が何者であるかも考えようとせず、贅沢な宮廷に暮らし、フェルセンへの愛を胸に生きる、無邪気で天真爛漫な女性。それが歴史の渦の中、民衆の怒りを知り、貴族たちが味方ではなかったこと知り、もはや何もできず、すべてを奪われてから、自分自身が何者であるかを自覚し、王妃として断頭台に向かう。このカタルシスは前半からのマリーの成長があってこそ。 初演は断頭台のシーンで終わるらしいのですが、今回は「暴力の連鎖は終わらない。どうすれば変えられる？ この世界を私たちは」と歴史を見る第三者視点の歌が挟まれ、少し距離を置いたところで、ドレスで美しく着飾ったマリーの笑顔のカーテンコール。観劇後も、観客は重さ・暗さを引きずらずに済みます。 マリーを追い詰めていく側のヒロイン・マルグリットもＷキャスト。抜群の歌唱力の昆夏美さんと、歌唱に癖はあれど憑依型迫力演技のソニンさん。マリーとマルグリットは、実は父親が同じ姉妹という最後にわかる設定があります。昆さんは「もしかしたらお姫様の血筋だったんだ」というのも納得の、運命に翻弄されたヒロインでした。歌はうまいし、小柄な体型とひたむきな眼差しで、可哀想感が強い。フェルセンへの恋心も「本当は頼りたい、守られたい」可憐さが見え隠れします。笹本さんと近い響きの声質で、笹本×昆の日は姉妹感倍増。断頭台の前でくずおれたマリーの手を取るシーンが最大のハイライト、姉妹の物語っぽくなります。 ソニンさんは、もしかしたらお姫様だったかもしれない可能性も、自分で踏みにじりそうな強い女です。とにかく正義のために悪を討つ意志が強く、前半は容赦なくマリーを攻撃し、恋する？フェルセンさえも利用する強さ。けれど、革命側が暴走し、貴族皆殺しのおぞましい地獄が始まると「正義とは」信念が揺らぐというより、ボッキリ折れる激しさが好き。手を取り助け起こしたマリーが処刑された瞬間が、マルグリットの挫折でもある。そこから、エベールとオルレアンを破滅に追いやるところがハイライト。昆ちゃんとハイライトが違うように感じています。ソニンマルグリットは、憑依型の演技が客席もシンクロさせる感じで、癖になる強烈さ。 マリーとマルグリットの直接対面は何度かありますが、後半の「憎しみの瞳」が印象的。笹本さん×ソニンさんだと、火花が散るような凄まじいぶつかり合いでバルジャベと呼ばれていました。いやほんとそのとおり(笑) うん、この舞台は面白い。 Ｗキャストの面白さで言えば、マリーとマルグリットの二人が恋するフェルセンも対照的でした。古川さんは甘いマスクにやさしげな微笑みと囁き、いかにも王妃の愛人風。 いっぽう田代さんはいかにも軍人らしい、キビキビした動きに正統派の歌唱力、何で不倫なんかしちゃったの？真っ直ぐな人でした。私は田代さんのフェルセンがとても好き。田代さんはあちこちで拝見していますが、こんなに麗しい方だと思ったのは、フェルセン役が初めて。体重を落としたそうで、フェルセンの優美な貴族衣装が似合い、しかし端正な所作と豊かな声量が芯の強さを伺わせる。 マリーに革命の脅威を忠告する「遠い稲妻」という曲があるのですが、これがもう完全にお説教。リラックスしたドレスにお茶を用意して、久々のデートを楽しもうとするマリーに向かって激怒、浮かれた娘に雷を落とす父親のよう。後にヴァレンヌ逃亡を計画するほど、マリーを命がけで救おうとしたフェルセン。王妃と知らずに恋に落ちた若い頃とは気持ちが変化し、母親となり、フランスの皇妃たろうとするマリーを導き守る、騎士のような立ち位置なんでしょうね。大好き。 マリーの夫であるルイもＷキャストですが、これまた役作りが対極。原田優一さんは素で「ちょっと足りない」役作りで、驚いてしまいました。登場時から視線がキョロキョロして、不審者。左右靴を履き間違えるのも、さもありなんという感じ。これじゃあマリーが浮気するのも仕方ない？ 佐藤隆紀さんは、テディベア体型と相まって、ちょっとおっとりし過ぎた優しい国王。歴史に語られる、質素で学者気質（ヲタク気質？）、国民にも人気のあったルイ１６世を思うならば、こちらのほうが好みですね。最終的にマリーは夫と共にあることを選ぶわけですし、「私は私の国民に発砲することはできない」と筋の通った国王ですし。 自分の好みを語りましたが、Ｗキャストでいろいろ見られるのは楽しいところ。まんまと円盤は2ヴァージョン購入しましたよ。笹本ソニンのバルジャベ対決が好きだけど、田代フェルセンをどうしても手元に残しておきたかった……！ さて、私の贔屓役者の駒田一さんは、髪結いのレオナールでした。ドレス屋のローズ・ベルタン（彩吹真央さん）とコンビで、前半はマリーの浪費を煽り、首飾り事件にも一役買い、ヴァレンヌ逃亡では誤った伝言で王妃一家を破滅に導く役どころ。有名な「パンがなけらばお菓子を食べればいいじゃない」のもマリーではなく、ローズ＆レオナールの歌でした。正直、またこういう役どころか(笑)とも思いましたが。東宝さんの中では、駒田さんの立ち位置は常にこのへん？ 知識のなかった観劇前は、マリーの理解者ポジションで、いいおじさんかな？と思っていたので、いざ観劇してみたら、オルレアンたちに流される小物っぷりと、保身のための変わり身の早さにビックリ。お金が大好きで、流行の最先端で大儲け。 髪結いと言っても、あらかじめド派手に結ったカツラを用意するカツラ屋なので、王妃の髪に触れながら話を聞く……みたいな場面はまったくありませんでした。極彩色の髪を高く結い上げたカツラに、気球や船やヴァイオリンを突き刺す奇抜なスタイル。陽気に歌い踊りながら新作ドレスを紹介し、煙の出るおもちゃの鉄砲みたいなのを発射。 本人もゴールド基調の貴族服に、三つ編みをぶらさげた金髪、頭頂部にはピンクと白の大きな羽飾りもついています。かかとの高い靴で、小指を立て、ウィンク連発、おじさんには違いありませんが、これまでのどのおじさん役よりもお洒落できれいでした！（これまでのおじさん、小汚いとかチンピラファッションとかが多くてぇ）流行の最先端過ぎて、洗練とはちょっと違う感じですが。 いや、マリーのドレスコレクションはとても素敵でしたよ？ アントワネット・ブルーのドレスや、ピンクに薔薇の花を縫い付けたドレス、淡い水色にピンクの花をあしらったドレス、プチ・トリアノンの野原で着ていたカントリー風のドレス。どれも可憐で素敵で、これ、ベルタンはともかく、レオナールは関わってないやろ……と思いました。紐を引っ張るとオペラ座の幕が上がる仕掛けのあるドレスとか、ミニ大砲を発射できるドレスとか、奇天烈なのはレオナールっぽいけど。 ドレスデザイナーのベルタン役、彩吹さんとは「初恋探し」から続く共演で、息ピッタリのコンビでしたね。宝塚の元男役だけあって大変華やかなルックスですが、彩吹さんは相手役を立てる芝居もとてもうまい方。互いの才能をリスペクトしつつ、感情ではなく勘定のために利用しあう、どこまでも対等なレオナールとベルタンの関係に合っていました。ファンの立場からですが、駒田さんもやりやすそうに見えて、彩吹さんにはとても感謝しています！ 似たような立ち位置の二人組でも、レミゼのテナルディエ夫妻のように下品でなく、むしろお洒落できれいなのがローズ＆レオナールの良いところ。例のごとくコミカル担当なので、二人が出て来ると場がほぐれ、後半の重苦しさの中で良い気分転換でした。 しかし疑問が一つ。ヴァレンヌ逃亡失敗の原因が「レオナールの伝言ミス」と描かれていますが、果たして伝言ミスだったのか、それとも故意だったのか……？ 単なるミスであれば、こういう流されやすい庶民が歴史を変える、という演出になります。けれど、自分が逃げる時間を稼ぐために？わざと国王一家を陥れたのだとすれば、ローズ＆レオナールは非常に恐ろしい役になります。ミスか故意か、明確にわかる描写はなく……うう、気になる。観る側で考えてという部分なのでしょうが、演出家の意図はいつか聞いてみたいなあ。 というわけで、だいぶ時間が経ってから、思い出しながらMAの感想を書いてみました。これはきっと再演ある〜と思っております。作品としてもとても好きなので、ぜひまた観たいです。お待ちしております、東宝さん。 |
fin. |