以下、盛大にネタヴァレ注意。

　宮川さんの構成は、ライブなのに、ミュージカル仕立て、ヒューマン・コメディタッチ。設定は牢屋、駒田さん演じるオカマのユリと、大谷さん演じる組長、宮川さん演じるオタクが囚人。麻乃さん演じる好子が看守役でした。

　囚人たちの衣装は当然ボーダーパジャマ。オカマのユリはピンクのボーダーにハートのアップリケつき、頭にリボン。ちょ、全編駒田さんはオカマで通すの？と焦るファン、実際オカマで通しましたとも、それが可愛かったんですとも！　元建設会社組長で現職ラーメン屋の通称・組長は、スタンダードな着こなし。オタクの通称オタくんは、七三メガネにズボン裾の長さ違いでハズしてましたね。小道具として持っていたのは「アニメのフィギュア」のはずが、リカちゃん人形でした。フィギュアとドールは違うのよ〜と人形者は内心でツッコミ。

　ミュージカルの始まりは、駒田さんと大谷さんによるアタックナンバーワン牢屋ver.の熱唱から。駒田さんは裏声多用、口半開きのあざとい表情でクネクネしつつ、ダンスは華麗な宝塚調？　客席は初っ端から、喉から鼻に抜ける噴出笑いに襲われたわけです。

　そこへ入ってくる新入りのオタくん。器物損壊の罪で収監されたらしいのですが、お店のフィギュアのパンツをカッターで脱がせたって……最近のフィギュアはカッター使わなくてもキャストオフできるのがありますし、カッターで削るにしても、購入して家でやればまったく犯罪じゃないんですよね。さらに中身を作りこむ魔改造もよくある話。と、再び内心でオタクツッコミ。

　さてアニメのフィギュアが恋人だったオタくんは、何と看守の好子に一目惚れしてしまいます。これはオタくんと好子の恋物語か……と見せかけて、いきなり組長と好子の親子関係が発覚する展開。

　組長が家庭を顧みなかった昔に、別れていた娘。苦労した母は亡くなり、父を恨んだ時期もある好子。好子を迎えに行くために心を入れ替えて働き、今ではラーメン屋を繁盛させている父。父は娘に会うために、自分の店で無銭飲食しては、ここに収監されていた……次々語られる事実。細かく突っ込むといろいろアレですが、役者さんたちの語りに、思わずホロリとしてしまったのは事実。

　そしてついでのように、ユリに告白する組長。えっ、ソッチに展開ですかっ？　ユリ＝駒田さんと組長＝大谷さんが、手をとり見つめあい、しっとりとデュエットして、熱い抱擁を……わあ、びっくりしたなあ、もう。終演後のコメントで大谷さんが「駒田一とは長いつきあいですが、まさか恋人役をやる日が来るとは思いませんでした」と仰ったのと、ファンも同じ心境でしたとも。こんなキャスティングを思いつく宮川さんってスゴイデス！

　そんなドタバタの中、囚人たちは警察内部のコンサートに出演することになります。前置きでチラリと震災のことに触れ、歌い出す美しいハーモニー。「もしも僕たちがただ歌うことで、明日の景色が違って見えるなら」歌詞はうろ覚えですが、深く胸に響き、ついさっきまで爆笑していたというのに、思わずこみ上げる涙。やっぱりしみじみスゴイんです、この人たちの歌は。この日のミュージカルに使った歌のほとんどは、作詞・作曲・編曲とも役者さんや演奏者さんたち自身。ライブで恒例となりつつある宮川さんの音楽センスは、素直で透明感があって、すんなり気持ちに入り込んできます。この歌をまた聴きたいです。ライブＣＤ出してくれないかなぁ。

　そしてしみじみさせた直後に、アップテンポの楽しい曲。歌に限らず、芝居の緩急もメリハリメリハリで飽きる隙がありません。

　そしえ物語は帰結。好子は組長を父と気づいていたことを告白し、父の過去の過ちを、娘の名前をつけたラーメンの味に免じて許します。そしてユリのことを「お母さん」と呼ぶ場面も。好子に恋していたオタくんは、出所して一人前の男になってから、好子に改めて告白に来ることを決意。ハッピーエンドで、幕を閉じます。

　時間は90分ちょい、笑って、泣いて、密度の濃い時間でしたね。終演後、素直に楽しかった、いいもの見たなぁ、と感じました。いつもながら、気取らず素直にストレートにテーマを伝え、終わった後に見た人が幸せを感じる、そんなスタンスがとても好きです。この方たちの、舞台に立つ心意気が現れているんでしょうね。わざと謎や未消化なモヤモヤ気分を残したり、中二病全開の難解な舞台に出くわす機会の多いこの頃、こうした舞台には心底癒されます。

　それにつけても、ユリの可愛かったこと！　シラノのヒゲのシスターも可愛かったですが、ユリに関しては違和感なさ過ぎて困りましたです。オカマキャラを通しつつ、歌もうっとり聴かせる、絶妙の加減。駒田さんのハスキーボイスは、こういう使い方もありなんですね。

　オタくんは、本業オタクからするとまだまだ設定が甘い気がしますが、シャイなところと、ラストで安易に告白せず出所して一人前になってからという男らしさが◎。

　大谷さんは、組長みたいなオヤジ役をやらせると本当に素晴らしい！　声も演技も渋くて、いぶし銀の存在感でした。

　好子は刑務官ということでかなり口汚いですが、麻乃さんの上品さで、ちょうどいいさっぱり感でした。

　舞台に出ずっぱりだったヴァイオリニストの◎さんは、途中で二胡に持ち替えたりという器用さ。ルックスも華やかで、哀愁漂う麗しい響きを聴かせてくれました。

　同じく出ずっぱりのキーボードの◎さんは、作曲・編曲も手がけるマルチプレーヤー。たった二人のミュージシャンでこれだけの音楽を作り上げる手腕がお見事でした。

　あと蛇足ながら、関交響ハーモニックホールは新宿の大通りから一本入った静かな環境にあり、大きさも程よく、椅子も座り心地よく、個人的に落ち着けました。外並びもしやすいし、またここ使ってくれないかな。

　そんなこんなで素敵な時間を過ごしました。大きな舞台ももちろん大好きですが、近い距離で思い切り歌を堪能できるライブ、これからも定期的に聞けたらうれしいです！