何でしょうかね、正直今期は興奮抑え目でした。直前のTDVに萌えて萌えつき、アレ、もうレミが始まるのかって感じでテンション上がらずでした。

　絶対はずせない大好き！キャストが駒田さんと別所さんの二人だけだったというのもあるかもしれません。かつてのマリウスの岡田さんや、アンジョルラスの東山さん、女優陣ならファンティーヌのマルシアさんや、エポニーヌのANZAさんあたりがいませんでしたし、できれば観たくないキャストがチラホラ、しかも駒田さん目当てでチケットを取ると高確率でついてくるという切ない現実が。ファンティーヌが相当辛かったです、今期。個人的にすごい重要な役なんだけどな、エポアンジョよりも優先で。

　あとはオケが編成も音程の安定感も淋しかったことと、ガブローシュ等の演出変更にいまだなじめず、一部キャストのマイク音量を調整しすぎで、全体に迫力不足でした。レミだけは何度観ても鳥肌が立って泣けていた過去が嘘のよう。

　そんな中で、今期観られてよかった！キャストはエポニーヌの坂本さん。2003年当初は声量のなさ等が指摘されていましたが、今期はそういったストレスはなく、年月をかけてなじんだエポニーヌ像が、切なく胸に迫りました。恋愛色強めで私のエポニーヌの解釈とは必ずしも一致しないんですが、とにかく自然体で無理がないので、すんなり納得できてしまう。恋愛というか、坂本さんの場合は純粋にマリウスを慕う気持ちですね。すさんだ暮らしで一切の感情を麻痺させているエポニーヌが、マリウスの前でだけは自分の淡い感情に気付く。そんな切なさが坂本さんの透き通った歌声によく合っていて、完成度の高いエポニーヌでした。

　あと原田優一くんのアンジョルラス。フワフワ茶髪の潔癖ボンボンっぽい原作寄りの役作りはもともと好きですが、今期はさらに磨かれて存在感が増した感じ。高音まで安定の歌唱力もグウ。ただちょっと歌っているときに表情筋が動きすぎて変顔になっちゃうのが惜しい；しょっぱいもの食べたオヤジみたいな顔も可愛いんですが、役作りとのギャップに吹きかけたことが何度か。

　ところで主役はバルジャンですが。

　今期は久々に今井さんを観られてうれしかったです。駒田さんとの土日共演率が低過ぎるんだもの；この人は、実にバルジャンらしいバルジャン。ルックスが絵本のイメージのバルジャンで、歌唱力は抜群、演技もひとつひとつ丁寧。独白で銀の燭台を投げつけようとして地に膝を着くところ、取引で怒りを見せる場面、幼いコゼットを抱きしめて乞食たちから守るところ、エピローグでコゼットを抱きしめるところ……どの場面も、私が思い描く通りのバルジャンの動きをしてくれます。期に一回はこの人を見たいなあと思う次第。東宝さん、駒田さんとの土日共演お願いします。

　逆に、私の予想を常に裏切ってくる進化系バルジャンが別所さん。過去に「この演技がイイ！」と思っても、次はやってくれなかったりするので毎回とても新鮮です。そして予想を裏切るところで、スゴイものを見せてくれることが多い。初演でははファンティーヌを聖なる女性として感じさせる演技に胸打たれ、人間くさい葛藤にもがく演技、学生たちに共感する演技等、他方面に変化。

　今期はエポニーヌとの関係性がちょっと面白かったですね。マリウスの手紙を届けにきたエポニーヌを外に出した後、ガチャンと大きな音を立てて門扉を閉じる。門の外にいるエポニーヌには目もくれず、マリウスのコゼットへのラブレターを一心不乱に読み耽る。マリウスもバルジャンもコゼットのことしか考えていなくて、エポニーヌの惨めさが増し、その後のオンマイオウンがいっそう説得力を増します。そして実は、命を懸けて愛する人と一生添い遂げる存在ではないという意味では、バルジャンもエポニーヌも同じ立場。みんなから愛され、守られるコゼットとマリウス。対照的に、想い尽くしてやがて死んでいくエポニーヌとバルジャン。この対比に気付くと、エピローグにエポニーヌが現れる意味がより深く感じられる気がします。次回レミゼは2011年、フルキャストオーディションとのことですが、絶対にまた別所さんのバルジャンを観たいなあ。

　で、絶対に観たいというか、この人ありきでレミゼを考えるのが、駒田さんです。そもそも駒田さんが出ていたから、レミゼを観始めたわけで。

　この方はどの役をやってもそうですが、舞台上での自分の役割というものをとにかく心得ています。その芝居の中での役という次元にとどまらず、演出や共演者、その日の流れや観客の反応によっても変化する舞台という生き物の中で、自分の役割が何なのか、的確に察して演じている。だからこそ、どんな状況でも安心して観られますし、舞台が締まるんですよね。

　基本的にテナルディエは駒田さんでしか観ないのですが、レミヲタの姉につきあって他のキャストさんで観ると、こんなに違って見えるんだなあと驚きます。もちろん好みの問題で、ファンの私にとって駒田さんが一番！なのは当然ですが。強いて言うなら、無駄な動きがない、の一言に尽きるかな。宿屋で歌いながら客をいじる場面、ベガーズでの登場からバルジャン、ジャベールとの絡み、襲撃でのエポニーヌとのやり取り、下水道でのソロ、舞踏会で酒や料理や銀の皿をつまみながらマリウスと話す場面。どれも何気ない動きですが、軽妙でリズミカル、視界にうるさくなく、他の役者の妨げにならず、かと言って主張がないわけではなく、オケと一緒に観客の体のあるべきところにしみこむ感じ。

　そうしてピタリ収まるべきところに収まると、全体に重い舞台にコミカルな切り替えを差し込むだけでなく、バルジャン・ジャベールとの三すくみが見えてくる。バルジャン・ジャベール・テナルディエの三人が揃うワンデイモア、ベガーズの場面ではとくに際立ちます。神の慈愛に従うバルジャン、法の前に正しくあろうとするジャベール、己の欲望の前には神も法もないテナルディエ。「飽くなき欲望こそが我らの支配者」これはダンスオブヴァンパイアの歌詞ですが、テナルディエもたしかに己の哲学を信じ、生きている。そのへんがしっかり見えるのが、とても好きです。

　さて、すっかり間も空いて、ぐだぐだな感想はこのへんで。次回のレミゼは、もっと興奮できるといいな。キャスト次第では私は観ないかもしれませんが。

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fin.