○ホール

　私は川崎、名古屋、広島と三箇所巡りましたが、ミューザ川崎のシンフォニーホールがダントツに好きでした。

　駅から１分、季節柄クリスマスイルミネーションに照らし出される近代的なホール。一歩入れば、普段はクラシック・コンサートに使う木目の内装、パイプオルガン、どの席からも出演者が近いドーム型の変形ステージ。……ええ、席が良くて、出演者が近いのが最大のポイントだったかもしれません（笑）それでも、中日劇場２列目より、高さの同じ川崎４列目のほうがずっと近く感じました。舞台の下から見上げるというよりも、同じ世界にそのまま入り込めそうな。

　さらにバルジャンは、２日間とも私の一番好きな別所バルジャン。詳しくは次の項目に。

○別所さんのバルジャン

　父性あふれる温かい演技が大好きな別所さんのバルジャン。コンサート形式では魅力半減かな？と思いきや、川崎では暗転した後の演技まで見ることができて、かえってたっぷりと別所バルジャンを堪能できました。

　個人的ドツボは二カ所。リトル・コゼットを迎えに行く場面で、テナルディエ夫妻を無視しつつ、コゼットの手をぎゅっと両手で握るところ。ただ不憫な子を迎えに来ただけではなくて、バルジャンにとって聖なる女性であるファンティーヌ（別所バルジャンの場合、私にはそう見えるのです）の娘を、生涯自分の生き甲斐として、また贖罪として、育てて行こうという敬虔な決意を感じました。本来赤の他人のはずの、けれどお互い孤独だったバルジャンとコゼットが心を通わせる大好きな場面。

　もうひとつは、ワンデイモアの直前、マリウスと離れることに顔を曇らせるコゼットの頬を、大丈夫だよ、と撫でる場面。これは私、初めて見た気がします。そもそも暗転した一瞬の出来事でしたので、川崎のあの席だったからこそ見えたレアな演技なのかも。暗くなっても、バルジャンは父性あふれるバルジャンなんですねえ。バルジャンはマリウスのことなど知る由もなく、単純にコゼットは追っ手に怯えているだけだと思っているわけですが、このあたりのすれ違う思いやりが切なくて、胸にぎゅっと来た場面でした。

　コンサートでも、やっぱり別所さんバルジャンが私はいちばん好きです。

○マルシアさんのファンティーヌ

　本公演中はそれほど感じなかった彼女ですが、前回のレミコン以来、大好きなファンティーヌになりました。もともとの歌唱力・演技力に、岩崎宏美さんにも通じる気品とはかなさが加わり、ああファンティーヌだ……と思えます。

　個人的に好きなポイントは「夢破れて」でペンダントに手をやる仕草。それが彼女を捨てた男との思い出の品だという設定がはっきりと感じられ、自分は捨てられてもペンダントを捨てられずにいる女心、その後でペンダントを売らざるを得なくなる場面まで含めて、巧い使い方だと感じ入りました。

　あとは「娼婦だってドブネズミと寝ないわ」「追い払わせたのはあなたよ」あたりの歌い方。本公演では中指を突き立てそうな勢いでしたが、コンサートではむしろはかなく、自分自身を哀れむ表現に変化したように感じます。その後、死の床でコゼットを想い続け、どんなに悲惨な目にあっても神への信仰を忘れないファンティーヌの清純な人格を思うと、大変好みの歌い方でした。

　バルジャンの死を迎えに来る場面も、生身を離れた透明な存在感と、娘・コゼットへの命の温もりのある愛情がバランスよく感じられて、本当に好きなファンティーヌでした。

○ジャベール

　今回私が観たのは、岡さんと今さんのジャベールでした。

　岡さんのジャベールは本公演のときから好きで、今回もやっぱりいいなぁと。自殺のオクターブ上げも好きですし、俺の美学のある端正なジャベールは、一般的な役解釈はとにかく大好き。そしてバルジャンへの執着……というか、バルジャンに心乱される度合いが一番強いのも岡さんのジャベールだと感じました。

　えーと、以下恐縮ながら腐女子モードになるので文字反転。

　たかだか一徒刑囚の仮出獄に際して「忘れるなよ、俺の名を」ですし、刑事になった後も「あなたを見て思い出す」「あいつのことならよく知ってます」後生大事にバルジャンの思い出を抱えているし、挙げ句訊かれもしないのに「牢獄で俺は生まれた」なんて自分語りを始めるし、ジャベールがひとかたならぬ執着をバルジャンに持っていることは間違いないと思いますが、岡さんのジャベールは本当に、バルジャンを見つめる眼が一切よそ見せずにまっすぐ。気にしていない気にしていないと思いつつも、気づくとバルジャンを追っている自分に気づき、首を振って打ち消すような。

　自殺の場面では、自分と同じく牢獄暮らしをしながら正反対の生き方、法に背き逃れ、だが弱者には慈愛を与え、命を張って赤の他人の娘を愛し守っているバルジャンの生き方に、心打たれ、惹かれていることを自覚し、耐えきれずに命を絶ったような。……好きだと気づいたから自殺するなんて、少女向けファンタジーかい（笑）と思いつつ、私にはそのように見えてしまったのでございます。完全腐女子モードでスミマセン。

　反対に今さんのジャベールは男らしい、男臭すぎるほどのジャベールでした。本公演ではむしろきちんと枠にはまったアクのないジャベール像を感じたのですが、高嶋ジャベールが抜けた後の男臭さを補うかのように……とまでいうと語弊があるかもしれませんが、仮出獄の場面から熱くたぎった歌い方、椅子に座っている間もガバーッと膝を開き、電車だったらマナー違反ですソレな態度で、自殺も切れちゃった笑い全開。小道具の警棒を魅せる使い方は健在で、動きの少ないコンサートではかなり派手に見えました。振り回し方が男らしく乱暴なのに、描く軌跡はむしろ流麗で美しいところがまたミソ。

　好みかどうかと訊かれるとむしろ逆なのですが、あふれる男の魅力にどうしようもなく惹かれたジャベールでもありました。

　結論。どっちも好き。←わけわからん。

○マリウスとコゼット

　私にとってある意味最も重要なのがこの二人。この二人に心から幸せになって欲しいと思えなければ、ラストの感動は半減してしまうので。

　今回、戸井さんのマリウスを初めて見ましたが、ツボだったのが、プリュメ街でコゼットと手を合わせる前にズボンの脇で手を拭くところ。カワイイですねえ。ただ大人の落ち着きもあり、私のドツボにはハマりませんでした。

　今回もベスト・マリウスはやっぱり岡田さん。すっかりファンになっているせいもありますが、とにかく可愛くてしょうがない。育ちのいい、ちょっと天然の入った貴族の坊ちゃんで、周囲が守って幸せにしてあげなければならない、誰よりも幸せにしてやりたいと思わせる不思議な魅力にあふれたマリウス。

　コンサートではずっと舞台の椅子に座っていますが、この座り方がまたマリウス。背筋を伸ばしてやや浅く腰掛け、手は軽く握って膝の上に、他の方のソロを聴くときは体ごと向き直って。岡田さんの素がどんな人なのか存じませんが（そういえば新幹線のホームですれ違ったときも、ビビリまくるファンに、にこりと笑って会釈してくださったなあ。素も上品な方なのかなあ）、とにかく「えーとこのボン」という感じで可愛い。名古屋ではマリウス正面席の２列目で堪能させていただきました。

　そしてコゼット。今回は剣持さんと河野さんを観ましたが、どちらも好き！　剣持さんはとにかく高音がきれいに決まり、ラストシーンでも「パパ」を呼ぶ声で泣かせてくれます。普段が凛としているだけに、パパだけに見せる甘えがより可愛いんだなあ。

　河野さんは高音が時々不安定ですが、とにかく可愛い！　マリウスと見つめ合う表情などは、もう恋しちゃってるねコノー！でも可愛いから何でも許す！　と思ってしまいます。声も少女らしくて可愛いし。←ただの美少女好きコメントですみません。だって地団駄踏みたくなるほど可愛いんだもの〜。何人かが同時に歌う場面では私、かなりの確率で、バルジャンでもマリウスでもなく、コゼットを見つめていたりします。

　コンサートでは生憎と結婚式のシーンにマリウスとコゼットが登場しませんが、直前に二人で見つめ合い、手に手を取って退場する一瞬の表情が大好きです。

○アンジョルラス

　ジャベールと同様、岡さんのアンジョルラスと今さんのアンジョルラスが印象に残っています。

　一方は伝説と騒がれる岡アンジョルラス。たしかに容貌華やかで立ち居振る舞いも美しく、歌声にも惚れ惚れ。ただ、飛び抜けて背が高いので、学生たちの中では「ＳＤ少年の中に混ざったロング足１３少年←特殊なたとえ過ぎ！」のような違和感を感じてしまいました。そのくせ顔は周囲より小さいから距離感わかんなくなるし（笑）

　個人的な注目ポイントの「落ち込んだマリウスに対する場面」では、両手をぎゅっと握りしめて力づけていました。一緒に悲しむ本公演での吉野アンジョや、肩を組む坂元アンジョとも違い、どことなく突き放した印象。個人の死に揺るがない、冷徹なリーダー像を感じました。

　もう一方の今さんアンジョルラスは、対照的なくらい男らしいタイプ。むしろ男臭い？魅力を感じました。

　容姿もキレイ系よりはスポーツ系に作り、決して乱暴ではないけれど、立ち居振る舞いは思い切りよく男らしい。静と動がハッキリしているのか、大きな動きに目を奪われ、ぴたり静止するとついそのまま見とれてしまうんですね。マリウスの慰め方も、頭を両手で掴んで振ってみたり、まさに英雄的カリスマのアンジョでした。英雄は一般人の弱さを共有はできませんけれど、わからないなりに癒してしまう大きさがあるんですよねー。

　よくわかりませんが、今回ジャベールとアンジョルラスと見て、今さんという役者さんの男の色気に当てられた気がします。女性的な色っぽいとは違う、力強く引きつける吸引力。いかん、ハマりました……。個人的にはまたアンジョルラスを見たいです。

○エポニーヌ

　新妻さんのエポニーヌがとっても素敵になっていました。もともとの歌唱力に加えて、演技が加わり、同時に歌に乗る感情も豊かに。とくにオンマイオウンは聴いた〜！という満足感のある仕上がりです。

　そして相変わらずＡＮＺＡさんのエポニーヌが好きです。正直ムラはあるのですが、決まったときは最高！　他のエポニーヌが「マリウスへの片思い」が大きくクローズアップされているのに対して、まず背景に貧乏でみじめな、父親の犯罪まがいの片棒を担がされている暗い人生があり、その中で唯一の光としてマリウスの存在がある。このへんのバランスが感じられて私好み。

　オンマイオウンの中で、夜になると私は目覚める、という趣旨の歌詞がありますが、昼間の人生は彼女にとって抜け殻、夜だけ彼女自身になれるという深い歌詞。数年前に昼の自分は死んでいる、と感じていたことのある私にとっては、エポニーヌほどの辛い経験はないながらも、この部分を丁寧に歌ってくれるとジワリ来るのです。

○局田さんのガブローシュ＆リトルコゼット

　小さい子達。局田さん、前回レミコンから「少年にしか見えない」と思っていましたが、いやもう、ホント少年にしか見えません。学生に肩車されてもまったく違和感を感じないし、カーテンコールで駒田さんに後ろから「バンザイ」させられて困るの図も大変可愛かったです。

　ただ表情があまりにも荒んだガブローシュだったので、ガブちゃんはもちょっと妖精のような軽さが欲しいかな？と思っていました。今回はベガーズの場面で、婆と娼婦マドレーヌがやりあうのを指差して面白がって笑ったり、隙があると学生の間をぴょんこぴょんこ跳ね回り、学生と小突き合い、ガンの飛ばし合いをしていたところがグーでした。

　彼女なら、出演時期がどうしても短くなる声変わり直前期の子役さんより、もっと羽でも生えたように軽やかなガブローシュを、いつか魅せてくれるんじゃないかと期待しています。永遠の少年、それこそ私の理想だよなあ。動きが大きくなり、見せ場も増える本公演が楽しみ。

　そしてリトル・コゼットちゃんたち。本公演から続投の子はとにかく演技が巧くなりました。巧い、なんていうと偉そうですが、子役が歌っている頑張れ〜という目線はなくなり、すっかり安心して芸に見入ることが出来ました。テナルディエ夫人を怖がったり、寒がったり、バルジャンに微笑みかけたり、あの雲の上に母親の姿を見つめたり。

　リトル・エポニーヌも意地悪っぷりが思い切りよくて好きです、ハイ。

○駒田さんのテナルディエ＆夫人

　さて〆です。先に言います。例のごとく、駒田さんのテナルディエしか見ていません。ＦＣでチケットを取ってもらったので、当然といえば当然ですが。

　駒田さんのテナルディエは、本公演→前回レミコンの過程でかなり「凄み」を増したように感じていましたが、今回レミコンではその凄みそのままに客をノせる雰囲気作りもパワーアップしたように感じました。

　うれしかったのが、広島での結婚式の場面。結婚式ではテナルディエ夫人とアンサンブルさんの誘導で、テンポの合間に手拍子を打つのですが、一見さんにはなかなか難しい。（って、実は私も良く間違えますが；）ただレミコン常連はわかっているので、間違えずに打ちます。川崎や名古屋では、常連さんがリードして成功。ところが、常連さんばかりだと思っていた広島では、何故だかテンポ通りの手拍子が！　つまり、手拍子を打っていいかどうかわからない一見さんたちが、思わずテナルディエのノリに釣られて先に手拍子を始めたと思われるのです。何だかうれしい一瞬でした。

　凄みに関しては、やっぱり下水道。コンサートでは簡易照明なのですが、本公演でのあのシンプルながら効果的な照明、格子柄に落ちてくる闇の中の円い光が見える気がしました。暗い中にぽかりと開いた月の光。暗く、虚しく、あざ笑うような、あきらめたような、光り輝く世界には遠い遠い光。本公演ではいかにゾクゾクすることかと今から楽しみです。

　あと細かいポイントでは、バルジャンに水桶を持たせて帰ってきたリトル・コゼットに「ドゥリャ！」だか何だかの脅し声をかけるところ。本公演ではありませんでしたが、びくっとするリトル・コゼットが可愛らしく、テナルディエもコミカルで面白いです。

　と、テナルディエ夫人が歌っている間のアドリブ。毎回いろいろやってくれますが、今回多かったのはモニターを生かして夫人の後ろに変な顔で映ること。メイクはもちろんテナルディエなのでアップにするとあちこち黒いわ、小汚いわ、お茶目さん（笑）

　テナルディエ夫妻の力関係は、相手によって、日によって変わるようですが、峰さんとはファンが妬くほどの夫唱婦随の仲良しぶり。瀬戸内さんとは、対等な似た者夫婦でお互いに悪戯をし掛け合う関係に見えました。どっちも、何だかんだ夫婦仲はよさそう。

　瀬戸内さんとは、リトル・コゼットが歌っている後ろで、顔をムニュッとつまむイチャイチャをしてみたり、妻が夫の脇腹をコチョコチョくすぐり、何とか笑をこらえて歌いきってから「くすぐってえよ！」な場面もありました。何というか悪戯合戦。客席からは面白いけれど、結構大変そうです（笑）

　結婚式のシーンでテナルディエ夫人が転ぶきっかけについても、峰さんはからかって飛ばされて勢いあまって転び、瀬戸内さんは調子に乗りすぎて「もう知らねえよオマエ」と手放されて飛んで転ぶようなニュアンスの違いを感じました。

　さて、この夫妻どこまでワルく成長していくのか、本公演が今から楽しみです。

　……というところでこんなものかしら。まったくレミのことになると何でこんなに大量になるんでしょうね？（そして何で、人形衣装はアンジョルラス＆マリウスを作ろうとしていますかね？？？）

fin.